レッドブル「まるでDRS」速度差20km/h…ホンダと対応相談、メルセデスの驚異的な直線スピードに困惑

レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンを抑えて走行するメルセデスのバルテリ・ボッタス、2021年10月10日F1トルコGP決勝レースにてCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

10日のF1第16戦トルコGPを終えて、レッドブル・ホンダの首脳陣は速度差20km/hにも達するメルセデスの驚異的なストレートスピードに困惑している。曰くそれは、あたかもDRS(空気抵抗低減システム)を使用しているかのような驚くべきものだったという。

メルセデス1-2もあり得たトルコ

イスタンブール・パークでのレースを終えたレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表は、2-3のダブル表彰台に満足げな表情を浮かべていた。

マックス・フェルスタッペンはシルバーアロー優勢のトラックでダメージを最小限に抑える2位を飾り、チームメイトのセルジオ・ペレスは8冠目を目指すルイス・ハミルトンとの接近戦を根性でねじ伏せ、第7戦フランスGP以来、9戦ぶりに表彰台に上がった。

日本のエンジンサプライヤーに敬意を払う特別なホワイトカラーのRB16Bを持ち込んだ英国ミルトンキーンズの一団はチームとして総合力を発揮し、シーズン6戦を残してF1ドライバーズ選手権トップの座を奪還した。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスが獲得した2021年10月10日のF1トルコGPのトロフィーとシャンパン

だが、ライバルのメルセデスがヘルマン・ティルケ最高傑作の一つと名高いイスタンブールで最速のマシンを持っていた事も見逃せない事実だった。フェルスタッペンがポールシッターのバルテリ・ボッタスを脅かすようなシーンは一度もなかった。

実際、コースレコードと共に予選最速を刻んだハミルトンが4基目ICE(内燃エンジン)の投入によるエンジン交換ペナルティを受けていなければ、スリーポインテッドスターを掲げるブラック・アローが1-2フィニッシュを飾っていた可能性は高い。

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イスタンブール・パーク・サーキットの表彰台で優勝トロフィーを掲げるメルセデスのバルテリ・ボッタス、2021年10月10日F1トルコGP決勝レースにて

速度差20km…W12の驚異的なトップスピード

トルコでのW12の強さの秘密は何処にあったのか? レッドブル・レーシングの首脳陣は特に、W12の驚異的なトップスピードに目をつけている。

モータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコはオーストリアの放送局ORFとのインタビューの中で「まるでDRSを使用しているかのように、ここでの彼らは15km/h近くも速かった」と語った。

58周を通して終始、ダンプコンディションが続いたため、トルコGPではDRSの使用許可が出されなかった。安全性の観点からレギュレーションはウェットコンディションの場合や、濃霧などによって視界が極めて悪い状況下でのDRSの使用を禁止している。

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雨のイスタンブール・パーク・サーキットのホームストレートを疾走するメルセデスのバルテリ・ボッタス、2021年10月10日F1トルコGP決勝レースにて

「このような状況はシルバーストン以来、続いており、その差は益々大きくなっている」とヘルムート・マルコは語る。

「このエンジンの優位性については、それが何なのか、我々としてどうすれば良いのかは分からない。シャシーを更に最適化し、再びバランスを取る必要がある」

「何か考えなければならない」

ヘルムート・マルコは状況を打破すべく、ホンダにも相談を持ちかける意向を示したが、同時に車体側でのパフォーマンス追求が必要不可欠だと強調した。

「例えばアルファタウリでさえ我々よりも速かったのだ。彼らはセットアップ面で我々よりも優れていた」

こうした話題がトルコの週末に再び上がったのは、レッドブルが薄めのスプーンウィングを搭載していた一方、メルセデスが高めのダウンフォース・セットアップを使用していたためだ。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

リアウイングに「ありがとう」のメッセージが入った特別カラーのレッドブル・ホンダRB16Bをドライブするセルジオ・ペレス、2021年10月9日F1トルコGPにて

クリスチャン・ホーナーは「ダウンフォースが大きいにも関わらず、ストレートラインにおける彼らのトップスピードは15〜20km/hほど速い。だからこそ、その部分を改善していかなければならない」と警戒感を口にした。

この件についてレッドブルは、抗議や問い合わせはしないものの、ルールが尊重されるように状況を注視するようFIAに要請したと言う。

イギリスGP以降のW12が低速からの加速性能を大幅に向上させた事から、パドックではインタークーラーとプレナムチャンバー周りにそのトリックがあるとの見方が広まった。

プレナム内の温度については技術規則の第5条6項8で「周囲温度よりも10℃以上高くなければならない」と定められているが、ライバルはメルセデスが当該規定値よりも低い温度の空気をエンジンに送り込んでいると疑ったのだ。

だがFIAは調査の結果、この疑惑を退けたと伝えられている。

エンジン運用の姿勢変化

トップスピードの高さと合わせてイスタンブールで話題となったのがM12パワーユニットの信頼性だった。

前戦ロシアGPではボッタスとニコラス・ラティフィが年間上限基数を超えるエンジン交換を行い降格ペナルティを受け、トルコではハミルトンが4基目投入によって11番グリッドに後退した。

今季型M12のV6エンジンに相次いでいる一連の問題についてメルセデスのトト・ウォルフ代表は、「性能限界」を超えたパワーユニットの使用によって内燃機関に「異常なノイズ」が発生する等のトラブルが発生していたと説明した。

興味深いのは「パーツを再設計する事ができない」というトト・ウォルフの発言だ。規制では信頼性に関わる内容についてはシーズン中のアップデートが認められている。

Courtesy Of Daimler AG

イスタンブール・パーク・サーキットのガレージから出てコースへと向かうメルセデスのルイス・ハミルトン、2021年10月8日F1トルコGPにて

2014年シーズン中に一度もフルパワーを使わなかったとする話題(トト・ウォルフは否定)が記憶に新しいが、これまでメルセデスが高い信頼性を発揮してきた理由の一つは性能を抑えた運用姿勢にあったものと考えられる。

ハイパワーを弄りだせばその分だけ信頼性は犠牲になる。エンジンを酷使した事がM12の一連の問題につながったとするならば、FIAが開発を認めない可能性は十分にあり得る。

信じがたい話だが、ボッタスがモンツァで開封したばかりの4基目ICEは僅か1戦でお釈迦になったと伝えられている。だが、メルセデスが残りのシーズンでハミルトンに可能な限り最大限のエンジンパワーを与えるために最適なバランスを実戦確認すべく、予選と決勝を限界モードで走らせるテストをしていたとしたら…納得もできる。

クリスチャン・ホーナーは「メルセデスにしては珍しい事だが、今シーズンは信頼性の問題を抱えている。だが、それと同時に彼らは非常に速い。ひょっとすると、この2つは関係があるのかもしれない」と語っている。

最終盤で鍵を握る”加齢”

クリスチャン・ホーナーは「次のコースの幾つかは我々に適しているかもしれないが、オースティンはハミルトンのホームコースだからベストを尽くさなければならない」と述べ、サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)での次戦への警戒感を強めている。

朗報なのは、COTAに続くエルマノス・ロドリゲスとインテルラゴスがレッドブル・ホンダ向きのサーキットということだが、残る中東での3連戦を予想するのは難しい。

とは言え、メルセデスM12はホンダRA621Hより”加齢”に伴うパフォーマンス低下が大きいように見える。仮に最終盤に両者のエンジンパフォーマンスが再び拮抗したとしても驚きはない。

F1トルコGP特集

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