形勢逆転のタイトル争い…レッドブルとメルセデスによるホンダ2基目PUを巡る論戦、パワー向上疑惑の真相如何に?
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シーズン8戦を終えてチャンピオンシップの流れに変化が見え始めている。開幕序盤ではレッドブル・ホンダが予選で一歩先行するパフォーマンスを示す一方、レースではメルセデスが僅かに優位に立っているように見えたが、5月初旬のスペインでのルイス・ハミルトンの最後の勝利以来、状況は明らかに変化した。
メルセデスは伝統のモナコで一切見せ場を作れず、続く同じ市街地のアゼルバイジャンでは防戦一方となり、僅差での勝利をもぎ取るべきであったフランスでは戦略的ミスによって躓いた。そしてオーストリアではレッドブル・ホンダが明らかなアドバンテージを見せつけた。
ハミルトンはレースを前に、ポールシッターのマックス・フェルスタッペンが1周あたり0.25秒以上の差をつけてくるだろうとの予想を口にしていたが、蓋を開ければまさにそのとおりの展開となった。
33号車RB16Bは27周目のピットストップまでに5.5秒のリードを確保。対するハミルトンは第2スティントの前半で僅かにラップリーダーに迫ったものの、その後、ギアを一段階引き上げたフェルスタッペンはじわじわとギャップを広げていき、ライバルに対して「勝利のチャンスはない」と突きつけた。
メルセデス陣営は逆転を諦め、ダメージリミテーションのためにファステストラップを狙いにいかざるを得なかった。タイム計測のためのタイヤ交換による余計なピットストップ分が含まれているとは言え、最終的に両者のタイム差は35秒にまで達した。
レースを終えたハミルトンは「今日の彼らはあまりにも速すぎた。全力を尽くしたけど、ストレートでの彼らのトップスピードは桁違いに上がっている。その理由がウイングなのかエンジンなのかは分からないけど、いずれにしても彼らは速すぎた」と嘆いた。
ハミルトンはポールリカールでの週末以降、幾度となくレッドブルのストレートでの速さに言及している。ホンダはフランスGPで今季2基目のパワーユニットを3台のマシンに投入した。
メルセデスのトト・ウォルフ代表は、ホンダの2基目のパワーユニットはアップグレードなのではとの議論をポールリカールで提起し、対するレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表は低ドラッグのリアウイングによって高速性能を上げただけだと自己弁護した。
これに対してスクーデリア・フェラーリのマッティア・ビノット代表は、GPSデータの解析を元に「昨今の彼らのパフォーマンスはバーレーンと同じだ。問題が発生したためにホンダは(バーレーン以降)パワーを下げなければならなかったが、解決された事で最初のレベルに戻ったというわけだ。つまり純粋なパワーが向上したわけではない」と指摘。ホンダは信頼性の問題を解決しただけだと割って入った。
信頼性を高めた事でより強力なエンジンモードを使用する事が可能となり、エネルギーマネジメントに対する理解が深まったことでERSもパフォーマンスを後押しする事になったものと見られているが、どうやら要因はそれだけではないようだ。
クリスチャン・ホーナー代表曰く、ラップタイムが目に見える形で向上した理由の一つには、チームの燃料・潤滑油サプライヤーであるエクソンモービル製の改良型オイルがあるという。
英AUTOSPORTによるとアゼルバイジャンGPで投入された新しいモービル1オイルには化粧品業界で一般的に使われる特異な成分が含まれており、これにより耐摩耗・耐熱性能が改善されているという。一体どのような成分なのか気になるところだが、エクソンモービル・グローバル・モータースポーツ・テクノロジー・マネージャーを務めるトメック・ヤングは同誌に対して詳細を明かさなかった。
なおアップグレードによってホンダが大きく前進したとの考えを改めようとはしなかったトト・ウォルフだが、翌週末のレッドブル・リンクでは態度を一変させている。
トト・ウォルフはレッドブルが軽めのウイングを装着してなお、コーナーで自分達と同等程度の競争力を発揮していたとして「これは彼らのクルマにダウンフォースがあることを示している」「我々はエンジンを非難するのではなく、宿題をこなし、改善を続けていかなければならない。これはFIAの領域であり考えうる要因は数多くあるわけで、エンジンがよりパワフルになったというのは早計だ」として、ホンダの2基目のパワーユニットに疑わしいものはなにもないと主張した。