リバティ・メディアは理解不十分だった、とロス・ブラウン…46年に渡るキャリア終止符を前にF1改革を振り返る

F1のモータースポーツ担当マネージング・ディレクターを務めるロス・ブラウン、2019年11月17日F1ブラジルGPにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

F1モータースポーツ担当マネージングディレクターとしての職務満了、そして46年に渡るモータースポーツのキャリア終焉を前に、ロス・ブラウンがリバティ・メディア新体制下における過去6年のF1改革を振り返った。

フェラーリ黄金期を経て、チーム代表としてホンダワークスとブラウンGP、そしてメルセデスを率いた名将ブラウンがキャリア最終章に選んだのはF1の改革だった。

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

フェラーリ・チーム代表時代のロス・ブラウンとミハエル・シューマッハ

リバティは当初、理解不十分だった

リバティ・メディアによる2017年1月の買収完了を経てブラウンは、競技面の最高責任者としてバーニー・エクレストン退任後のF1の将来像を描き、そして実現に向けて汗を流してきた。

F1公式サイトのコラムの中でブラウンは「F1の経済面こそ理解していたが、リバティは当初、スポーツ面やビジネス側についてあまり理解していなかった」と買収当時を振り返った。

「ただ、チェイス・ケアリーを責任者に据えたのは賢明だった。F1での経験が豊富なベテランではなかったにも関わらず、彼はビジネスとスポーツ面をすぐに把握した」

「リバティは当初、F1での経験豊富な人物を必要としていた。そこで私にアプローチしてきた」

「このスポーツの発展を別の視点から捉えることができるのであれば、という点で私は興味を持った。どうすればレースを改善できるのか?と言うね」

「その点において我々は素晴らしいチームを作り上げたし、成功したと思っているし、その成果に心から満足している」

「われわれはF1を新たな道へと導いたのだ」

Courtesy Of Red Bull Content Pool

F1のチェイス・ケアリー会長兼CEO

勝利の方程式を変えた予算上限

リバティ・メディアは従来の方針を転換し、インターネットを活用しながら新たなファンの発掘に務めるとともに、ブラウンの力を借りながらチーム間競争力の平準化を目標に掲げ、財務及び技術、そして競技の3方向から抜本的な改革に取り組んできた。

結果、F1マーケットは世界的な拡大を遂げ、招致を希望するプロモーターは後を経たず、開催権料は右肩上がりに増え続けている。

ブラウンは成功要因の一つに予算上限を挙げた。F1は従来、資金力がグリッド上での競争力に大きな影響を与えるスポーツであったが、全チーム合意の下、2021年に史上初めて財務レギュレーションが導入された。

この画期的な出来事についてブラウンは「コストキャップがもたらしたのは、限られた予算内で最も賢くやりくりした人が勝利を収めるという状況だ。フィールド間のマージンは一層、狭まってきている」と指摘した。

「コストキャップはF1にとって非常に重要なステップだと思う。解決すべきバグはあるものの、システム導入のための困難を踏まえれば、昨年の導入以来のF1チームとFIAの成果は本当に素晴らしいものだと思う」

Courtesy Of Red Bull Content Pool

決勝レーススタート前のグリッドとグランドスタンドに詰めかけたファン、2022年4月10日F1オーストラリアGP

グランドエフェクトカー導入の背景にあった個人的不満

モータースポーツ担当マネジングディレクターとしてのブラウンの最大の功績はグランドエフェクトカーの導入だろう。

接近戦の実現を目指してダウンフォースを維持しつつも後方乱気流を抑制した新世代のマシンは近代F1のレースに新たな次元をもたらした。これはブラウンが現役時代に感じ続けていたフラストレーションがヒントになった。

「我々は新たな視点を以てレギュレーションと対峙した。最優先事項はより良いレーシングカーを作る事にあった。なぜならこれまでそれが優先されることはなく、私が抱いていた不満の一つでもあった」とブラウンは語る。

「従来、マシンのレギュレーションを策定していたのはチームだった。FIAの優先事項は安全性にあり、クルマのスピードが常に妥当な範囲内に収まるよう確認する事にあった」

「クルマをどうデザインするかということに関してFIAはそのためのリソースを持たず、チームに任されていた。世界最強を目指すチーム側がレース性を最優先とすることはない」

「我々はそのためのワーキンググループを立ち上げた。最優先事項はより良いレーシングカーを作ること、つまり、接近して他のクルマとレースができ、一貫性のあるドライビングを可能にし、接触してもデブリが脱落しないマシンだった」

Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

シェイクダウンを行うルイス・ハミルトンとメルセデスF1マシン「W13」、2022年2月18日シルバーストン・サーキットにて

「レーサビリティの追求。それはマインドセットの転換だった。これは私が本当に満足しているF1の思考変化の一つだ。今後もF1のプライオリティであり続けるだろう」

「2022年型マシンの初レースを見た時、それまでは殆どなかった2・3台のマシンが並走するシーンを目にして私は本当に興奮した。今では何の問題もなく数周に渡って他のクルマの後ろを激しく攻める事ができるようになった」

「何より良かったのは素晴らしい接戦、最高のエンターテインメントが見れた事で、我々は幾度となく激しい胸の高まりを感じた。今年は例年以上に良いレースを見ることができたし、それによって私は本当に報われた気持ちになった」

今後は一人の「F1ファン」

1976年にフライス盤オペレーターとしてマーチ・エンジニアリングに入社した時に始まったブラウンのキャリアは間もなく終わりを迎える。

イタリア国内の一部報道は、マッティア・ビノットに代わるスクーデリア・フェラーリの新たなチーム代表候補にブラウンの名前を挙げているが、本人は今後、一人のファンとしてF1を応援し続けるつもりだと言う。

「私のF1での時間は終わりに近づいている。F1との関わり、仲間たちとの親交と友情というものを寂しく思うことになるだろう」

「これまでの成果には満足している。私が経営陣に加わってからの過去6年間は本当に大きな変化があった。今日のF1はかつてないほどに力強い」

「過去数年に渡って取り組んできた全ての事に満足している」

「チームの一員に戻りたいという気持ちは遠ざかり、私はこれに関しては十分だと区切りをつけた。ただ今の仕事だけには魅力を感じた」

「こういった機会をリバティから与えてもらえて本当に幸運だった。この仕事は本当に楽しかった」

「今こそ引退すべき時だ。大凡の仕事は終わり、今後はそれをまとめ上げていく時だ」

「2026年に再び新しい世代のマシンが導入されるが、私にとってこれから4年はあまりに長い。だからこれに関しては次のグループに任せる方が良い」

「私は最高の形でF1から去るのだ。46年に渡るキャリアの殆ど全てを愛してきた。素晴らしいチーム、ドライバー、人々と共に働けて幸運だった。思い残すことは何もない」

「ひとつ確かなことは、妻と家族の支えなくしてこの仕事を成し遂げることはできなかったし、やりたいとも思わなかったということだ」

「これからはソファに座ってF1を見て、F1ファンとして応援し、そして罵るつもりだ。このスポーツが素晴らしい未来に開かれたファンタスティックな場所にある事に喜びを感じている」

「最高のレースを祝して乾杯」

copyright Pirelli

2013年F1ハンガリーGPで勝利したルイス・ハミルトンと共に表彰台に上がるロス・ブラウン

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