好成績に「ペナルティ」を…F1カスタマーチーム規定を巡る新たな論争、ハースやRBに逆風か
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2026年のF1レギュレーション改訂に向け、車体製造における内製率を抑えながら好成績を収めるカスタマーチーム(他チームからパーツを購入して参戦しているチーム)に、実質的なペナルティを科そうとする動きがあるようだ。
独Auto Motor und Sportによれば、現在議論されている新しい規則案では、コンストラクターズ選手権で5位以上の成績を一度でも獲得した場合、3年の猶予期間を経て、すべての部品を自社製造しなければならないという。
「すべての部品」には、通常は他チームから購入が許されているギアボックスやサスペンションなどのトランスファラブル・コンポーネント(TRC)も含まれる。
このルールの問題点は、本来称賛されるべき成功が、実質的にペナルティとして作用する形になってしまう点にある。独自の設計・製造能力を新たに用意しなければならず、自チームでの開発負担が増し、競争力の維持が難しくなる可能性がある。
特にブレーキダクトの設計が、前年のチャンピオンマシンであるメルセデスW10に酷似しているとして問題視されたレーシング・ポイントの「ピンク・メルセデス」論争(2020年)や、トロ・ロッソ(現RB)が自社でマシンを開発・製造することを余儀なくされた「カスタマーカー禁止条項」論争(2010年)など、F1ではこれまで幾度となく「コンストラクター」を巡る論争が繰り広げられてきた。
背景にあるのはF1のアイデンティティだ。1981年以来、F1競技規則は各チームに対し「オリジナルマシン」の製造を義務付けており、コンストラクターはF1チームがF1チームであることの、ある種の存在証明であり続けてきた。
今回の規則案は、こうした経緯に加えて、2016年にF1初参戦を果たして以降、ハースが採用してきた独自モデルに端を発するものだ。
ギュンター・シュタイナー率いるハースは、自社製造が義務付けられていないあらゆる部品をエンジンパートナーであるフェラーリから購入することでコストを削減し、リスクを抑えた。曰く、このモデルなしにハースがF1に参戦することはなかった。
ロマン・グロージャンがハースにとっての初戦で6位入賞を果たし、参入3シーズン目の2018年にコンストラクターズ選手権5位を獲得したことで、このアプローチは他の古参プライベーターからの非難を一層強める結果となった。
成績が低迷した2019年以降、批判は沈静化していたが、シュタイナーに代わり小松礼雄が指揮を執り始めた今年、ハースはシーズン終盤に向けて躍進を遂げ、現在ではアストンマーチンを凌ぐ5番目のマシンとしてミッドフィールドで存在感を示している。さらに、トヨタとの新たな提携も相まって、不信感を招いている。
一方でRBも「ハースモデル」に近づきつつある。レッドブルとのシナジーが強化され、2026年にはエンジン、ギアボックス、サスペンション、油圧等、シニアチームから最大限のパーツを調達する予定であるほか、来年からレッドブルの本拠地であるミルトンキーンズに専用施設を構える計画も進行している。
今回の変更案の背景には、こうした状況に対して一部の独立系チームが再び反発を強めているという事情があるとされる。
報道によると、RBはこの提案にオープンな姿勢を見せているが、ハースの小松礼雄代表は「小規模チームにとって致命的だ。もしF1が、より多くのチームが競争力を持つことを望むなら、このルールは拒否されるべきだ。ダビデがゴリアテに勝つことほど、スポーツにとって素晴らしいニュースがあるだろうか」と強く反対している。
小松礼雄はさらに、「ギアボックスやサスペンションがフェラーリ製か当社製かなど、ファンが興味を持つだろうか?」と問いかけ、TRCの価格は高く、コスト上限にも含まれるため、競争上の優位性はないとも主張した。
F1は技術革新と競争の場であり、各チームが独自の技術力で勝利を目指すことが、このスポーツの本質とされているため、技術共有やパーツ購入に関しては規則の解釈や適用に関する議論が絶えない。
2026年までは既に18ヶ月を切っているため、レギュレーションの変更には、10チームとFIA、そしてF1の各代表者が参加するF1コミッションでの承認が必要となる。