沈黙破るパディ・ロウ、遅いのは”組織”の責任…ウィリアムズでの2年間は「何も見返りがない本当に辛い時期だった」

ウィリアムズの最高技術責任者を務めるパディー・ロウCourtesy Of Glenn Dunbar/Williams F1

シーズン開幕前の予期せぬ休暇入り発表、そして突然の退任。V6時代におけるメルセデス初期の連覇を支えたパディ・ロウは何故、突如ウィリアムズを去ったのか? そしてあの混乱の裏では一体何が起きていたのか?

9度ものコンストラクタータイトルと7度のドライバータイトルを持つウィリアムズは、フェラーリ、マクラーレンと並び名門と称されるF1チームだが、2012年以降は一度も勝利がない。

1.6リッターV6ターボエンジンが導入された2014年に、当時圧倒的なアドバンテージを誇っていたメルセデスからPU供給を受けた事で、前年9位だったコンストラクター順位を一気に3位へと浮上させたが、ライバルメーカーのキャッチアップに従いその優位性は徐々に縮小。これと並行する様にパフォーマンスを失っていった。

チーフ・テクニカル・オフィサーとしてパディ・ロウが英国グローブのチームに加わったのはそんな2017年の事だった。彼にとってはF1キャリアをスタートさせた古巣だった。

1987年にエレクトロニクス部門の共同責任者となったパディ・ロウは、パトリック・ヘッドやエイドリアン・ニューウェイと協力して、アクティブ・サスペンションを搭載したFW14Bを開発。ナイジェル・マンセルに1992年のタイトルをもたらした。

だが2017年の再会は上手くいかなかった。パディ・ロウ指揮の下で初めて送り出された2018年型「FW41」は、この年のコンストラクターズ選手権で最下位に転落。そして2019年シーズンでは、プレシーズンテスト開幕までにマシン開発が間に合わず、悲惨なスタートを切る事となった。

パディ・ロウは開幕を前に長期休暇に入り、夏には正式にチームを離れ、ウィリアムズは再びランキング最下位となった。

Courtesy Of Williams F1

インテルラゴス・サーキットを走る二台のウィリアムズFW41

あれから2年。これまであの騒動とチーム離脱の理由が公にされる事はなかったが、F1公式ポッドキャストに出演したパディ・ロウがその重い口を少しばかり開いた。彼は自身が成績不振のスケープゴートにされたと考えている。

パディ・ロウはこれまでに関わった全てのF1シーズンを愛し、満足していると語る一方で「正直に言って、あまり話したくない時期だ」と述べ、その中から第2期ウィリアムズ時代を除外した。

「ウィリアムズでの2年間は本当に楽しくなかった。何の見返りもない、本当に大変な仕事だった。正直なところ、あまり口にしない方が良い話題だと思う」

「F1というのは物事を性急に進めたがる場所で、忍耐強さというものが存在しない空間である一方、競争は本当に厳しい。地球上で最も激しい競争が繰り広げられていると言っても過言ではないと思う」

「つまり、ある試みでミスを冒したり、長期間に渡って誤った方向に進んでいる場合、一夜にして挽回する事は不可能だという事だ」

Courtesy Of Williams

ウィリアムズの2014年型F1マシン「FW36」とフェリペ・マッサ、バルテリ・ボッタス、フランク・ウィリアムズ、クレア・ウィリアムズ

パディ・ロウは、ウィリアムズが抱えていた問題は構造的なものであり、コンストラクター3位に付けるなどしたハイブリッド時代の初期には、最強メルセデスエンジンの優位性でその欠陥が表立っていなかっただけだと説明する。

「私は多くの事に長けているし、多くの分野でそれを証明してきたつもりだが、奇跡を起こす事はできない。例を挙げよう」

「常勝チームの基盤は人材にある。F1における優秀な人材は、不調を抱えるチームのために働きたいとは思わない。だから最高の人材を雇う事が難しい。そして仮に雇えたとしても、何らかの成果を挙げるには通常1年から3年程度の長い時間を擁する」

「なぜならマシンとその性能というものは、人材やインフラ、技術、ソフトウェア、そしてあらゆる知識が投入された結果として表れるものであり、組織そのものだからだ」

「遅いマシンがあるとすれば、それはマシンが遅いのではなく、遅いマシンを作る組織があるという事なのだ」

「この場合、組織の立て直しが必要だが、それには本当に長い時間が必要だ」

パディ・ロウは「ウィリアムズは圧倒的に優れたエンジンを2014年から搭載する事になった。これが自分達の基本的なパフォーマンスに対する誤った印象に繋がった」と述べ、チームが舵取りを誤った原因の一つは、あまりに強すぎるメルセデスPUにあったとの考えを示した。

2014年型メルセデス「PU106A Hybrid」はその圧倒的なポテンシャルから、規約変更によって自分達のアドバンテージが奪われないようにと、メルセデス上層部がシーズンを通してフルパワーの使用を制限していた程だった。

「ウィリアムズはこれまでに積み重ねた他の様々なレガシーの恩恵を受けていたが、それも徐々に失われていった。悪いマシンは一夜にして生まれるわけではない。適切な投資や意思決定がなされず組織が低迷するに従って徐々に現れるものなのだ」とパディ・ロウは続ける。

「巻き返しは後退と同じ様にゆっくり進行する」

「だからこそ勝つ事が如何に難しいか、それが如何に長く重要なプロセスであるかを理解する能力をチームが失ってしまった場合、その影響はかなりの長期に及んでしまう」

グローブのチームに転機をもたらしたのは、皮肉にも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行だった。

ウィリアムズ・ファミリーは2020年にF1チームをドリルトン・キャピタルに売却。チーム代表のフランクと副代表のクレアはチーム運営から身を引き、新オーナーは多額の投資を行い、ヨスト・カピートをCEOに、サイモン・ロバーツをチーム代表に据えた。

パディ・ロウは今回の売却について「長い間に渡って必要とされていた事」であり「正直なところ、もっと早く売却すべきだった」として、チームにとって正しい決断であったとの考えを示した。

車体 ランキング ポイント 優勝
2000年 FW22 3位 36 0
2001年 FW23 3位 80 4
2002年 FW24 2位 92 1
2003年 FW25 2位 144 4
2004年 FW26 4位 88 1
2005年 FW27 5位 66 0
2006年 FW28 8位 11 0
2007年 FW29 4位 33 0
2008年 FW30 8位 26 0
2009年 FW31 7位 34.5 0
2010年 FW32 7位 69 0
2011年 FW33 7位 5 0
2012年 FW34 8位 76 1
2013年 FW35 9位 5 0
2014年 FW36 3位 320 0
2015年 FW37 3位 257 0
2016年 FW38 5位 138 0
2017年 FW40 5位 83 0
2018年 FW41 10位 7 0
2019年 FW42 10位 1 0
2020年 FW43 10位 0 0

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