論争のアブダビ決戦、渦中のマイケル・マシは「状況を上手く処理した」と元メルセデス首脳
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誰も彼もがアブダビでのFIAレースディレクターの判断を批判しているわけではない。かつて2012年までメルセデスのモータースポーツ部門の責任者を務めたノルベルト・ハウグはマイケル・マシを擁護する。
不幸にもマシは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)の争いに決定的な影響を与える判断を迫られる事となり、レースを終えて今も批判の的となっている。
ヤス・マリーナでの最終盤、オーストラリア人ディレクターはタイトルランナー2名の間にいた5台の周回遅れにのみセーフティーカー(SC)に対するラップバックを許可した。これによりハミルトンの背後を手にしたフェルスタッペンは、最終ラップでライバルを抜き去り初のタイトルを手にした。
この判断にメルセデスは公然と不満・怒りをあらわにして、2件の異議申し立てを申請。スチュワードがこれを却下した事で、控訴の意思を表明するに至った。
そして3日間の沈黙の後に控訴撤回を発表したが、依然としてシルバーアローのフラストレーションは解消されておらず、トト・ウォルフ代表は「責任を取らせるつもり」と述べ、一件に対する国際自動車連盟(FIA)の今後の調査と改善に厳しい注文をつけた。
だが、22年間に渡ってメルセデスのモータースポーツ部門の責任者を務めたハウグはマシの対応を擁護している。
ウォルフの前任であるハウグはServusTVとのインタビューの中で「彼は現実的なアプローチをとり、解決策を見つけようとしてきた。許可されていない事をしたとは思わない」と語った。
メルセデスは競技規約第48条12項を盾に、レースの再スタートは周回遅れの全車がラップバックした翌々周に行われると主張した。この場合、レースは再開されずにハミルトンがSC先導下でトップチェッカーを受ける事になる。
だが第48条13項は「”SAFETY CAR IN THIS LAP”のアナウンスが出た当該周回を以てSCが解除される」とも定めており、また第15条3項はレースディレクターに対してSCの導入と解除に関する全権を与えている。更に全チーム及びFIAとの間では、レースがSC先導下で終わらない事が望ましいとのコンセンサスがあった。
ハウグは「彼はいずれか一方を助けるためではなく、ファンの存在を念頭にスポーツという観点から最後の決戦を争いの最中で終わらせるために判断した」と述べ、片棒を担いだとのレースディレクターへの批判は筋違いとの考えを示した。
「例えそれが一方の側にとっての不運を意味したとしても、彼は状況を上手く処理した。ファンにとってそれは適切な判断であったし、彼にはそうする事が許されていた」
ハウグはまた、コース外走行によりアドバンテージを得たレッドブルに対してマシが、その是非をスチュワードに判断させる前に、自らポジションを返上する選択肢を与えた事についても「非常にフェア」だと考えている。
「あれは提案を飲むか、それとも提案を飲まずにスチュワードに報告させる道を選ぶのか、と言う事だった。スチュワードが審査すれば5秒ないしは10秒のペナルティが出るだろうが、提案を飲めばハミルトンの後ろで再スタートする機会が得られる、とね」
「あれは取引ではなく、非常に賢い行動だと思う」
往々にしてマシは常に、絶対的な存在感を持っていた前任の故チャーリー・ホワイティングと比較される立場にある。マシは急逝したホワイティングに代わって2019年のF1第1戦オーストラリアGPで同職代理を務め、2019年4月より正式にF1レースディレクターに就任した。
ノルベルト・ハウグは、マシが準備不足の「フライング・スタート」を強いられたにも関わらず「本当によくやっている」と指摘する。
「チャーリー・ホワイティングの跡を継ぐ者は、それが誰であれ苦労する事になる」
「チャーリー・ホワイティングはF1、そしてバーニー・エクレストンと共に歩んできた。最初はメカニック、その後はチーフメカニックとしてね。素晴らしい才能を持った人物で、冷静さ、落ち着き、バランスの模範だった」
「私は彼(マシ)と個人的に一緒に仕事をした事はないが、その賢さとこれまでの数多くの判断には感銘を受けた」