赤き弾丸フェラーリF1エンジンの謎…予選での”エキストラ馬力”が決勝レースでは消滅
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2019年スペックのフェラーリ製F1パワーユニット「Ferrari 064」は、一発の速さを競う予選セッションでメルセデスを凌ぐ圧倒的なパワーを発揮するものの、不思議なことに、決勝レースにおいてはそれだけの力強さが見られない。
今シーズンの予選では、メルセデス、ルノー、ホンダの誰もが、フェラーリのエンジン性能の前にひれ伏してきた。サーキットによりけりだが、3強を争うメルセデスとレッドブル・ホンダは跳ね馬に対して、概ね0.3秒から0.8秒をストレートで失っている。
FIA国際自動車連盟は2019年シーズンを前に、予選中にオイルを追加投入する事を禁止し、補助用サブオイルタンクを空にする新たな規制を付け加えた。これにより、前年と比べて予選モードによるゲインが減少しているだけに、フェラーリの予選での強さは非常に興味深く、また、謎に包まれている。
メルセデスの匿名のエンジニアはauto motor sportに対して「フェラーリはプラクティスにおいて、任意の数周に渡って最大30キロワットまで追加のパワーを使用している」と語り、GPSデータの分析結果の一部を明かした。マラネロが開発した「赤き弾丸」は、40馬力のエキストラパワーを隠し持っているようだが、奇妙なことにレースではその使用を封印しているようだ。
パワーハングリーなシルバーストンでのレースでシャルル・ルクレールは、DRSが使用できる程に近づきながらも、レッドブル・ホンダのピエール・ガスリーを交わすのに10周ものラップを要した。更に、追い抜いたのは直線区間ではなく低速のターン3。アウト側から力技でねじ込んで手にしたオーバーテイクだった。ルクレールは「ストレートで追い抜くチャンスはなかった」と認めた。
セバスチャン・ベッテルもまた、レッドブル・ホンダRB15のストレートスピードの前に順位を失った。イギリスGPでの37周目、マックス・フェルスタッペンはハンガーストレートでベッテルをオーバーテイク。フェラーリSF90はまるで停まっているかのように瞬殺された。フェルスタッペンがDRSを使用していたとは言え、驚きの速度差であった。
フェラーリの圧倒的なトップスピードの一因は空気抵抗の少ないエアロにあるとみられるが、それだけでは予選と決勝でのパフォーマンス差を説明出来ない。
過去10戦の最高速度を紐解くと、フェラーリは予選で6回トップに立ったが、決勝レースでは2回に留まっている。これらの2つのケースで最高速を記録したのはセバスチャン・ベッテルだが、ベッテルはフランスとオーストリアのレースを後方からスタートしたため、スリップストリームによる恩恵を受けていた。
とは言え、フェラーリが持つトップスピードの優位性は、アップグレードの投入によって徐々に薄まりつつある。過去3レース、つまり、ポール・リカールとレッドブル・リンク、そしてシルバーストンで最速を刻んだのはルノーだった。ダニエル・リカルドはイギリスGP予選のスピードトラップで時速337kmを記録。フェラーリ最上位はルクレールの4番手で時速332.5kmに留まった。
決勝で”40馬力”が消え失せる理由は不明だが、フェラーリが最高速を犠牲にして、段階的にダウンフォースを増やしつつある事は間違いないだろう。