映画「F1」超絶タイトな撮影、一部チームより多い「APX GP」のスポンサー料…制作陣が明かすベールに包まれた裏側
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イギリスGPを前にようやくタイトルが発表された新作映画「F1」について、監督を務めるジョセフ・コシンスキーと、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーがベールに包まれた撮影秘話を明かした。
この長編映画は、ブラッド・ピットが演じるソニー・ヘイズが引退を経て、架空のチーム「APX GP」のドライバーとしてF1にカムバックし、新人チームメイト役のダムソン・イドリスと競い合うというのがあらすじだ。
”現実のF1”を取り込むために、撮影は実際のレースウィークを通して行われている。
劇中ではイギリス(シルバーストン)、ハンガリー(ハンガロリンク)、ベルギー(スパ)、イタリア(モンツァ)、オランダ(ザントフォールト)、日本(鈴鹿)、ラスベガス、アブダビ(ヤス・マリーナ)、メキシコ(エルマノス・ロドリゲス)の9つのグランプリに加え、デイトナ24時間レースが登場する。
全世界で14億9000万ドルの興行収入を記録した「トップガン:マーヴェリック」で監督を務めたコシンスキーは米メディア「DEADLINE」とのインタビューの中で、現場には再撮影が許されないプレッシャーが渦巻いていると明かす。
「ブラッドとダムソンが実際にマシンをドライブすることそれ自体がかなり壮観なわけだが、それを観客の前であのようなスピードでやって、それを撮影する方法を考える…そのロジスティクスは、私がこれまで経験したことのないものだ」とコシンスキーは語る。
「我々は実際のグランプリを使って撮影に取り組んでいる。何十万もの観客の前で、プラクティスと予選セッションの合間の非常に限られた時間枠で撮影を行っているんだ」
「昨年、シルバーストンでグリッド上のシーンを撮影した。3人の俳優が対話する1シーン、あるいは1.5シーンだったのだが、これを撮影するのに9分間しかなかった。まるでピットストップのようだった」
「それは緊張感と、10時間かけて仕上げるようなサウンドステージ(撮影スタジオ)での通常の撮影日ではあり得ないような、全員が前かがみになって集中するような状況をもたらした」
「9分しかない状況では、出演者が全員が撮影前からアドレナリンを出している様が見て取れる。演技にもそれが表れる」
コシンスキーが言うようにAPX GPは、レッドブルやフェラーリ、メルセデスなどの既存チームと競い合う「11番目のチーム」として描かれる。映画にはエステバン・オコン(アルピーヌ)やカルロス・サインツ(フェラーリ)が登場するという話もある。
他のドライバーも登場するのか?との質問に対してコシンスキーは「そうだ。彼らは誰もが皆、自分自身を演じる」と答えた。
映画においてクルマの製作が必要になる場合、通常は見た目だけが本物の「映画用のクルマ」を作るが、本作ではF1直下のF2マシンのホイールベースを伸ばし、最大15個のカメラが設置可能な本格的なレーシングカーが用意された。
撮影チームはメルセデスとともにカメラマウントを設計。トップガンで使用されたものの「次世代型」とコシンスキーが呼ぶソニー製の特注カメラは、その動きをリアルタイムで制御できるよう進化を果たし、コース周辺に構築された無線ネットワークを通じて撮影中にパンやフォーカスを調整できる優れものだという。
全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキの影響により再撮影が必要となり、予算も3億ドルに膨れ上がったとも報じられているが、制作チームは俳優を使わないスタントドライバーの撮影に計画を切り替えるなどして対応。コシンスキーとブラッカイマーは一連の報道を否定するとともに、実際の予算はそれよりもかなり低いと説明した。
ブラッカイマーはまた、イギリス、ヨーロッパ諸国、アブダビなどでのリベート、そしてAPX GPのマシンにロゴを掲載することで得られる「一部のF1チームよりも多いスポンサーマネー」を活用することで撮影費用を補っていると明かした。
映画制作においては、ロケーション撮影を促進するために国や地域が映画制作会社に対してリベートやインセンティブを提供することがある。
映画の撮影に向けてコシンスキーがまず最初にコンタクトを取ったのがルイス・ハミルトン(メルセデス)だった。7度のF1ワールドチャンピオンは自身の会社「Dawn Apollo Films」を通じて本作のプロデューサーを務めている。
「できるだけリアルな映画にするために、日々その世界にいる人物が必要不可欠だと感じていた」とコシンスキーは語る。
「ルイスは素晴らしいパートナーだ。レースの合間にZoomで通話しながら、脚本を一行ずつ、1ターンずつ、タイヤコンパウンド毎に確認し、あらゆる細部まで正確かどうかをチェックしてくれる。それに加えて、クリエイティブやストーリーのレベルでも意見をくれるんだ」
「F1」は2025年6月25日より世界各国の映画館およびIMAXデジタルシアターで公開される。一体、どのような内容になるのだろうか?
コシンスキーは、F1に関する専門知識がなくても感情的なストーリーラインとF1の基本的な世界観を理解できるよう工夫していると説明する。
「レースに行ったことがない人や、レースについて何も知らない人でも、素晴らしい物語とレースを見ながら、このスポーツについて多くのことを学べるような映画を作っている」とコシンスキーは語る。
「トップガンを観た人は、海軍航空の専門家として映画を観たわけではないと思う。それでも映画を観ているうちに、作品の核となる感情的な対立を理解することができる。また、物語の進行が理解できる程度に世界観についても十分な情報を提供した。我々は今回も同じアプローチを取っている」
またブラッカイマーは「F1はチームメイトがライバルでもある唯一のスポーツで、それ自体が素晴らしいドラマだ。考えてみてほしい。表彰台に上がるためにチームメイトと競い合うんだ」と語る。
「映画に出てくるシーンはすべて、実際にF1レースで起こったことだ。『そんなことは絶対に起きない』などと誰も言うことはできない。実際に起きたことなのだ」
「レースに精通した熱狂的なファンにとっては、実際に起こった出来事を映画のキャラクターの視点から見ることでレースに入り込むことになる。これは楽しいマジックトリックだ。楽しんでもらえると思う」