2026年F1マシンはF2水準か「とんでもなく遅い」「達成不能」懸念と規定見直し要求が続出…承認に向け課題山積
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施行1年半前を前に初公表された2026年のF1車体レギュレーションに対し、現役ドライバーやチーム代表者から懐疑的な声が多く寄せられている。伝えられるところによると、空力コンセプトやバッテリーの持続時間を含む懸念事項を巡ってチーム側はFIA、F1側との話し合いを要求したようだ。
F1を統括する国際自動車連盟(FIA)はカナダGPを前に、次世代マシンを軽量小型化する計画を明らかにした。車体は30kg軽くなり、車幅は10cm狭くなる。ハイブリッドエンジンにおける電気パワーの割合は約50%にまで引き上げられ、完全に持続可能な燃料が使用される。
30kg減は「世界を変えない」
かねてより軽量化を主張していたルイス・ハミルトン(メルセデス)は「持続可能性に関して大きな一歩を踏み出した」として、新たなエンジンに関しては評価したものの、車体側については「正しい方向に進んでいるとは思うけど、たったの30kgだから、それでもまだ重いよね」と指摘した。
「みんなと同じ様に今朝、(ニュースを)見ただけだから、まだ特に意見はない。僕はまだ(シミュレーターで)走っていないけど、実際に走った何人かのドライバーと話をしたら『かなり遅い』と言っていた」
「だから実際に正しい方向に進んでいるのかどうかは、今後を見守る事になる」
実際にシミュレーターで2026年型マシンを走らせたというニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)は、現行車両と比べて「かなり違うのは確かだ」と述べ、施行されるまでの1年半を使って改良すべき点があると指摘した。
「ルイスが言ったように軽量化は良いことだけど、30kgで世界が変わるわけじゃない。特に高速コーナーでダウンフォースが大幅に減っているようだし、今とはかなり異なるシナリオと特性になると思う」
F2と大差なし?劇的スピード低下
新しいパワーユニットの特性を踏まえ、2026年のマシンはアクティブ・エアロダイナミクスを使用してドラッグを減らし、ストレートスピードを引き上げる。生成されるピークダウンフォースは約30%のダウンとなる見通しで、コーナリング速度は低下する。
ジョージ・ラッセル(メルセデス)は「2026年のクルマは今のものと比べて大幅に異なるものになると思う」と述べ、「ストレートでは遥かに速くなるけど、コーナーでは遅くなり、ラップ全体でも遅くなる可能性がある」と悲観的な予想を口にした。
ただその一方で、100%持続可能な燃料が導入される点に触れて「凄く良いと思う」とエンジン規定を高く評価した上で、エンジン側の都合でシャシーが「幾つかの妥協」を強いられるのは止むを得ないとの考えを示した。
アレックス・アルボン(ウィリアムズ)の評価は誰よりも率直だった。「言い過ぎたくはないけど、かなり遅くなると思う。とんでもなく遅くね」とアルボンは語る。
「ストレートスピードが尻すぼみにならないよう、MGU-K周りで色んな事が行われているとは思うけど、まだやるべき事があると思う。僕らがこれまでに取り組んできた作業や、幾つかのコースでの速度を見ると、かなり遅くなりそうな感じだ」
「クルマのサイズについては正しい方向だと思う。否定的な事を言うつもりはないけど、全体的に見て良い面と悪い面があるように思う。新しいエンジン規制の影響を補うために、あらゆる面がとんでもなく複雑な事になっているように思う」
「エアロの全体的な方向性を踏まえると、内部のパーツをもう少しばかり標準化するなりして、もう少しシンプルなエンジンにしたするなど、もっとベーシックなレギュレーションに戻す方がいいと思う」
アルボンの上司、ウィリアムズのジェームズ・ヴァウルズ代表は、下位カテゴリであるFIA-F2選手権車両とのパフォーマンス差が「ほんの数秒という僅差になる可能性」があるとして、F1はスーパーフォーミュラやインディカーよりも速い「モータースポーツ界でトップの座を維持することが不可欠」だと訴えた。
一強時代再来への懸念
最近ではV6ハイブリッド・ターボが導入された2014年以降のF1をメルセデスが支配したように、レギュレーションの大改定は歴史的に見て一強体制を生み出す傾向が強い。
オスカー・ピアストリ(マクラーレン)は「レギュレーションが変わるたびに、特にエンジンに関してはかなり大きな格差が生まれてきたと思う」と述べ、新時代の到来によりチーム間格差が大幅に広がったとしても「僕は驚かない」と語り、「その可能性はかなり高い」と付け加えた。
また、マシン開発を通して、3連覇を目指す王者レッドブルの背中に迫りつつある現在のマクラーレンに触れ、レギュレーションの長期継続は接戦をもたらすものであるとして、それこそがF1の進むべき道であるとの見解に「一定程度同意」した。
ハミルトンはピアストリの見解に同意した上で、電動パワーの引き上げを含む2026年の新エンジンについて、メルセデスが一強時代を築くに至ったV8からV6への移行ほどのインパクトはないとの見方を示し、「ひどく大きな違いが生じない事を期待するよ」と続けた。
セルジオ・ペレス(レッドブル)もまた、1つのチームが支配的な競争力を以て君臨する可能性に対する不安を表明し、そうなった場合に備えて「残り1年半のシーズンで、この接戦を楽しむしかないね」と付け加えた。
かけ離れた草案、見直し求めるF1チーム
ダウンフォース不足やデプロイメント切れ、バッテリーの重量増加にも関わらず30kgの軽量化を目指す方針など、新しいレギュレーションに対する懸念は以前から指摘されていたが、英AUTOSPORTによると計画発表を経てチーム代表らは、6月8日(土)に行われる会合で2026年に関する話題を議題の中心とするよう要請したと言う。
FIA国際競技規定(ISC)によれば、FIAが「車両の技術設計や性能バランスに大きな影響を与える可能性がある」と考える規定の変更は、例外こそあれ”原則的”には施行1年半前の6月30日までに発表されなければならない。
報道によると、調整のための時間を設けるべくレギュレーションの発表を10月まで延期するよう求めるチームもあったようだが、1チームの反対によりこの提案は阻止されたという。
FIAは6月28日の世界モータースポーツ評議会(WMSC)で正式承認される見通しだとしているが、以降の変更には異なる様々な思惑を持つチーム側の同意が必要となるため、ここ1ヶ月は草案を巡ってチームのロビー活動が活発化するかもしれない。
マクラーレンのアンドレア・ステラ代表は、掲げられた「高いレベルの目標」の達成を考慮すると草案はその実現から「大きくかけ離れている」として、「今こそFIA、F1、そしてチームが協力し、互いに耳を傾け、スポーツがこれらの目標を達成できる解決策を形成するために貢献すべき時だ」と訴えた。
またヴァウルズは「誰もその重量目標を達成できないと思う」と述べ、768kgという最低重量は現実的ではないと主張すると共に、30kgの削減によって得られる「僅かな利益」のためだけに、莫大な資金や時間を費やすのは「楽しくない」として、「見直す必要がある」と付け加えた。