各チームは2021年F1マシンの開発に際し、どのエリアに”トークン”を投じたのか?

フェラーリ、レッドブル・ホンダ、メルセデス、アストンマーチンの2021年型F1マシンcopyright Formula1 Data

3月12日(金)開幕のF1公式プレシーズンテストを直前に控えてようやくスクーデリア・フェラーリ「SF21」の新車発表が終わり、遂に2021年シーズンのグリッドに並ぶ全10チームのマシンが出揃った。

今シーズンの注目ポイントの一つは開発トークンの使い道だ。隠すことは何もないと言わんばかりに、マシンのどのエリアを改良したのかを明らかにするチームがある一方、「今は言えない」という絶対王者や、無言を貫くホンダF1パワーユニット搭載チームもある。

各チームは2021年型マシンの開発に際し、どのエリアにトークンを投じたのか?

そもそもトークン制度って何?

”トークン”と聞いて思い出されるのはパワーユニット(PU)だ。V6ハイブリッド・ターボが導入された当初、F1はシーズンを経る毎にPUを段階的に凍結させる計画を立てていた。

トークンとはアップデートのために設けられた開発用チケットの事を指す。各パワーユニットメーカーには規定数が割り当てられ、開発を行う事で消費される。トークンなしに開発する事はできない。つまり開発制限の道具というわけだ。

メルセデスが完全無敵の独走状態となってしまった事で他のマニュファクチャラーのキャッチアップをお膳立てすべく、このルールは最終的に2017年に撤廃され開発は自由化される事となった。

copyright Daimler AG

2014年から2018年までF1世界選手権でダブルタイトルを獲得したメルセデスAMGのパワーユニットとF1マシン

あれから4年。F1は昨年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響でファクトリーの閉鎖を強いられ、何とかシーズンを終える事は出来たものの、大部分が無観客レースとなった事もあり分配金は減少した。

チーム財政への影響を軽減すべく、当初2021年に予定されていた次世代マシンに関するレギュレーションの導入は2022年に後ろ倒しとなり、更には過当競争を防ぐ事で支出を抑えるべく、2021年に向けてのマシン開発に制限を加える事が合意された。ここでトークン制が復活する。

開発が禁止される箇所と開発が許される箇所がリスト化され、各チームにそれぞれ2つのトークンが与えられた。エアロパーツの大部分、冷却システム、サイド衝撃構造などはトークンフリーで開発できるが、モノコック、ギアボックス、ブレーキ等は開発が凍結された。だが、手持ちのトークンを使う事で制限領域での開発が認められる。

なおエリア毎にトークンの消費量は異なる。例えばブレーキや油圧システム、クラッチやDRSは1トークンで開発できるが、モノコックやギアボックス、ドライブシャフトなどの開発には2トークンが必要となる。詳しくはトークンとは?を参照されたい。

なお今年はダウンフォースの増加に伴いタイヤを守るべく、フロア後端の形状、リアブレーキダクトのウイングレット、ディフューザー・フェンスに制限が加えられたが、これらの変更に関してはトークンフリーで開発できる。参考:2021年F1レギュレーションの主要変更点

チーム別のトークン投入箇所

各チームは何を求めてどこにトークンを使ったのだろうか? 以下チームごとに見ていこう。

メルセデス「W12」

Courtesy Of Daimler AG

メルセデスAMGペトロナスF1チームの2021年型F1マシン「W12」のレンダリングイメージ全体像 (2)

前人未到のダブルタイトル8連覇の偉業が懸かる王者メルセデスは、ライバルチームの模倣を懸念しトークンの使い道を明らかにしていない。

なおテクニカルディレクターのジェームス・アリソンは、フロア縁に「見せたくない」ものがあるとして、レンダリングイメージでは明らかにしていない隠されたトリックがある事を認めているが、フロアはトークンとは無関係のエリアだ。

レッドブル・ホンダ「RB16B」

Courtesy Of Red Bull Content Pool

マックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスが駆るレッドブル・ホンダの2021年型F1マシン「RB16B」のレンダリングイメージ (1)

言わない、見せない、触れないの無言を貫くのは8年ぶりのタイトル奪還に燃えるレッドブル・ホンダだ。

新車「RB16B」のレンダリングを見る限りは、ギアボックスのケーシング、リアサスペンションなど車体後方エリアに投じられた可能性がありそうだが、実車すら公開されていない以上、ハッキリとした事は分からない。

昨年の「RB16」はリアの挙動が不安定で、特にアレックス・アルボンを大いに悩ませていた。

フェラーリ「SF21」

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

シャルル・ルクレールとカルロス・サインツが駆るスクーデリア・フェラーリの2021年型F1マシン「SF21」 (4)

過去40年の中でワーストとなるコンストラクター6位に終わった昨シーズンの挽回を目指す上で、スクーデリア・フェラーリはリアエンドに注力する事を選んだ。ノーズには立体的な造形が施されていたが、衝撃構造部の変更はなくモノコックも昨年型を流用した。

新型「SF21」の開発に際してチームは、規約変更により失われたダウンフォースを取り戻すべく新型ギアボックスにトークンを費やし、昨年のメルセデス型を狙ったものと思われるサスペンションシステムを作り上げた。

これには本来であればギアボックスだけでなくリア衝撃構造の変更が必要となるが、それでは2トークン足らない。フェラーリはケーシングの変更のみで上手く対応したようだ。

メルセデスは2020年型「W11」において、リアのロアアームをギアボックス・ケーシングではなく車体最後方にある衝撃構造に直接取りつけた。その結果リアサス全体が後ろ寄りとなり、後輪とボディーワーク下部との間の空間が拡大。アンダーフロアの流速が向上した事でダウンフォースが増強された。

マクラーレン「MCL35M」

Courtesy Of McLaren

マクラーレンの2021年型F1マシン「MCL35M」全景

トークンの用途を隠そうにも隠せないのがマクラーレンだ。昨季コンストラクター3位のチームは、2021年に向けてルノーからメルセデスへとパワーユニットを切り替えるために、これに合わせてシャシーの変更を余儀なくされた。

ただしPUの載せ替えによるシャシー変更は例外的に許可されたものであり、変更によってパフォーマンスが向上する事のないよう統括団体のFIAが厳しく目を光らせた。

アストンマーチン「AMR21」

Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

2021年型アストンマーチンF1マシン「AMR21」スタジオショット全体像 (5)

旧レーシングポイントは「AMR21」のサバイバルセルの変更に2トークンを費やした。これは規約の”抜け穴”によって他のチームよりも柔軟にトークンを使用できた恩恵と言えそうだ。

カスタマーチームはトップチームから様々なパーツ供給を受けている。例えばアストンマーチンは昨年、2019年仕様のメルセデス製ギヤボックスを使用していた。

本来であればギアボックス変更は2トークンの対象となるが、規約に抜け穴があったことでアストンはこれをトークンフリーで2020年スペックにアップグレードした。チームの独自製造を義務付けた“リステッドパーツ”以外のものがトークン対象外となっていたためだ。

アルファタウリ・ホンダ「AT02」

copyright Red Bull Content Pool

アルファタウリ・ホンダ2021年型F1マシン「AT02」レンダリング 左斜め前

アルファタウリ・ホンダは「AT02」の開発に際してフロント衝撃構造の変更に2トークンを投じ、新型フロントノーズを作り上げた。

アストンマーチンのように、開発トークンを使わず昨年型のレッドブル「RB16」のリアサスペンションを使う事も出来たが、チームは昨年1年間を通して使用していた2019年仕様を今季に持ち越す事を選択した。

テクニカルディレクターを務めるジョディ・エギントンはこれについて、昨年の「AT01」の弱点であったフロントエンドの改善にフォーカスするためだと説明した。

アルピーヌ「A521」

Courtesy Of Alpine Racing

フェルナンド・アロンソとエステバン・オコンが駆るアルピーヌF1チームの2021年型F1マシン「A521」 (4)

旧ルノー、アルピーヌF1チームもメルセデス、レッドブル・ホンダと同様にトークンの使用先を明かしていないが、リアエンドに焦点を当てた開発が行われた事は分かっている。

エグゼクティブ・ディレクターを務めるマルチン・ブコウスキーは「多くの変更はマシンのリアに集中している。このエリアはレギュレーション変更の影響が大きな部分であるため、我々はここにフォーカスした」と述べている。

アルファロメオ「C41」

Courtesy Of Sauber Motorsport AG

アルファロメオ・レーシング(Alfa Romeo Racing)の2021年型F1マシン「C41」 (1)

アルファロメオ「C41」はホンダ製F1パワーユニットを搭載する伊ファエンツァのチームと同様にフロント衝撃構造の変更にトークンを投じた。

テクニカル・ディレクターのヤン・モンショーはフロントノーズの変更を選んだ理由について、空力性能の改善を挙げている。

ウィリアムズ「FW43B」

Courtesy Of Williams

ジョージ・ラッセルとニコラス・ラティフィが駆るウィリアムズF1チームの2021年型F1マシン「FW43B」のレンダリング (13)

投入箇所は明らかにしていないが、ウィリアムズは昨年の内に既に1トークンを投じているため、2021年シーズンに向けて使用できる手持ちのトークンが1つのみだった。

チーム代表のサイモン・ロバーツは「トークンは1つしか残っておらず、ノーズやその他の構造に手を入れるための十分な数のトークンがなかった」と述べ、FW43Bの開発に際してはトークンを使用しなかったと説明した。

ハース「VF-21」

Courtesy Of Haas

ミック・シューマッハとニキータ・マゼピンが駆るハースF1チームの2021年型F1マシン「VF-21」のレンダリングイメージ (6)

トークンを使わなかったのはウィリアムズだけではない。次世代シャシーの2022年型マシンに全てを懸けるハースも今季型「VF-21」をトークンフリーで仕上げた。

パンデミックへの財務対策としてハースは、資金の節約のために昨年もマシン開発をストップしていた。懐事情を表すかのように、チームは2021年に向けてロマン・グロージャンとケビン・マグヌッセンという経験豊富なドライバーを放出。代わりに多額資金をもたらすニキータ・マゼピンとミック・シューマッハというルーキー2名を起用した。

チーム代表を務めるギュンター・シュタイナーは、マゼピンの父ドミトリーが創業したウラルカリ社とのタイトルスポンサー契約発表の際、シーズン中に「VF-21」をアップデートする計画はないと説明した。


メルセデス、レッドブル・ホンダ、アルピーヌは未公表。ハースとウィリアムズはトークンを使わずに新車を開発した。トークンの使い道が分かっているのは5チームだ。

アルファタウリ・ホンダとアルファロメオはフロントノーズ(衝撃構造)に2トークンを投じ、フェラーリはギアボックス、アストンマーチンはモノコック、マクラーレンはメルセデス製PUへの切り替えにトークンを使い切った。

チーム トークン投入箇所
メルセデス 未公表
レッドブル・ホンダ 未公表
アルピーヌ 未公表
アルファタウリ・ホンダ フロントノーズ
アルファロメオ フロントノーズ
フェラーリ ギアボックス
マクラーレン メルセデスPU載せ替え
アストンマーチン サバイバルセル
ウィリアムズ 未使用
ハース 未使用

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