メルセデスF1、終盤王座戦に向けPUの信頼性に懸念材料…走行中に「細心の注意」を払うハミルトン
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2021年シーズンの残り7戦でルイス・ハミルトンが4基目のメルセデス製F1パワーユニット(PU)を投じてグリッド降格ペナルティを受ける可能性が益々高まっている。
F1第15戦ロシアGPでは2台のメルセデスPU勢がエンジン交換を行い、日曜の決勝で降格ペナルティを受けた。共に信頼性に関わる理由からであった。
カスタマーチームのウィリアムズは2日目に向けて、今季4基目となるICE、TC、MGU-H、そして4基目のエキゾーストを開封。ニコラス・ラティフィのFW43Bに搭載した。これはシュタイアーマルクGPで僚友ジョージ・ラッセルが抱えたのと同じニューマティック・システムに関わる問題が原因と見られている。
更に決勝レースに先立っては、バルテリ・ボッタスが5基目のICE、ターボ、MGU-Hを投入して15グリッド降格を受けた。ボッタスは決勝レースを終えて「複数の問題」が確認されたために、交換を「余儀なくされた」と説明した。
問題を抱えたボッタスのPUは、ロシアGPの2週間前に開催されたイタリアGPで卸したばかりのフレッシュなものだった。
チーム代表を務めるトト・ウォルフは、残りのシーズンを見据えて戦略的にPUを備蓄したわけではなく「幾つかの疑問点」があるため「エンジンパフォーマンスを理解したい」がために交換したと説明した。
具体的にどういった問題が発生していたのかや、再使用が可能なのかどうか等、詳しい事は分かっていない。
PUの性能は信頼性と相反する関係にある。パフォーマンスを重視して運用すれば故障のリスクが高まるが、今季のレッドブル・ホンダ並びにマックス・フェルスタッペンの競争力を考えれば、信頼性を重視して低出力で運用するにも限界がある。
V6時代全勝のメルセデスにとって、これほどタイトなタイトル防衛戦を戦った事は今まで一度もない。加えて今季は史上最多の22戦がカレンダーに並んでいるものの、主要コンポーネントの上限基数に変更はなく、メルセデスに限らず全てのメーカーが難しい判断を強いられている。
ソチでのレースを終えて2点差で選手権をリードするハミルトンは、後半戦のキックオフを迎えたベルギーGPでペナルティなしに交換できる最後の3基目を投じた。これによりプールされたそれ以前の2基の内の1基は、その翌戦のオランダGPの最中に失われてしまった。
故にハミルトンがフリー走行を含めて残りの7レースで使用できるPUは2基しかない。マイレージを考えれば4基目投入の可能性は決して少なくない。
ハミルトンは次のように述べ、残された2基でシーズンを乗り越えられる可能性を増やすために、残されたエンジンに余計な負荷を与えないよう努めている事を明かした。
「ドライビングに際しては細心の注意を払ってエンジンを使っている。兎に角、周回数を最小限に抑えようと頑張っているんだ」
一方のホンダエンジン勢は、フェルスタッペン、セルジオ・ペレス、ピエール・ガスリーの3名が年間上限基数を上回るPUを開封して降格ペナルティを受けているが、いずれもメルセデスとの衝突による破損か戦略的な理由によるもので、信頼性に関わる深刻な問題は今のところ確認されていない。
更にホンダは今季末でF1を撤退するにも関わらず、終幕に向けて手を緩めるどころか、サマーブレイク明けから新型のエナジーストア(ES)を投入し、追撃の手を強めている。
ホンダの浅木泰昭F1パワーユニット開発責任者によるとこの新型ESは、エネルギー効率の改善と徹底した軽量化の両立を目標に数年がかりで開発されたもので、低抵抗かつ高効率な超高出力軽量バッテリーセルを搭載しているという。
レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表が「ペナルティも役を演じる事なるだろう」と語る通り、終盤7戦は一切のミスも信頼性不足も許されない。仮にハミルトンが4基目を投じれば選手権争いに影響が及ぶことは避けられない。