レッドブル・ホンダの勝利を決定付けメルセデスを苦悩させた要因 / F1エミリア・ロマーニャGP分析
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あえてエミリア・ロマーニャGPの勝敗を決定付けた要因を一つ挙げるとすれば、それは1周目のインシデントというよりはむしろ直前の降雨だろう。雨粒が路面を濡らし始めた時、レッドブル・ホンダ陣営が勝利を確信したかどうかは分からないが、少なくともメルセデスは頭を抱えたのではないだろうか?
グランプリ開幕以前から、週末の天気予報はウェットレースの可能性を示唆していた。土曜は持ち堪えたものの、イモラはレース開始1時間程前に雨に見舞われた。
週末を通してメルセデスはタイヤの熱入れに課題を抱えていた。
チーム代表を務めるトト・ウォルフは、ジョージ・ラッセルとの9位争いの末にクラッシュに巻き込まれたバルテリ・ボッタスについて「そもそもそんな場所でレースをしているべきではなかった」と語っているが、その原因は予選にあった。
ポールポジションを獲得したルイス・ハミルトンは毎回、アタックラップまでに辛うじてタイヤを作動させていたが、ボッタスはそれができず8番手に甘んじた。それが全てだった。
初日の2回のフリー走行で共に最速を刻んでいる事からも伺えるように、ボッタスは十分なウォームアップラップが得られさえすればハミルトンと遜色ないタイムを刻めていたものの、1周という限られたラップではフロントタイヤを温め切れず仕舞いだった。ボッタスは最終Q3よりQ1の方が速かったわけだが、それは同じコンパウンドで複数周回を重ねたためだった。
メルセデスは過去数年に渡って涼しいコンディションでは強さを発揮してきたものの、その反面、暑さを苦手としていた。ボッタスによると、こうした背景から、今シーズンに向けてはタイヤのオーバーヒートを低減させる方向で開発が進められてきたのだという。これがイモラでネガに働いた。
ボッタスは、路面温度あるいはタイヤのバルク温度(表面ではなく内部の平均温度)が1~2度違うだけで状況がまるで変わってしまうと説明し、エンジニアリング・ディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは「ごく僅かな差であっても、タイヤの温度というものはグリップに大きな影響を与える事が多い」と指摘した。
雨によってタイヤを作動させるのがより困難な状況になった事に加えて、隊列の只中に置かれたボッタスは前走車のスリップストリームの影響で更にフロントのグリップを失い、八方塞がりの状況に追い込まれた。
メルセデスはブレーキで発生した熱をタイヤへと伝えるべく、雨に備えてレースを前にブレーキ・シュラウドのセットアップを変更したが、それでもレッドブル・ホンダほど上手くタイヤを機能させるには至らなかった。
以下はニコラス・ラティフィとニキータ・マゼピンの接触に伴うセーフティーカー明け直後のフェルスタッペンとハミルトンのラップタイムを比較したものだ。
フェルスタッペンは最初の3周で計4.937秒ものギャップを築いているが、その後の3周では一転して逆に0.696秒詰められており、ハミルトンがタイヤを作動させるまで3周を要した事を示唆している。
周 | フェルスタッペン | ハミルトン | 差 |
---|---|---|---|
7 | 1:36.303 | 1:39.225 | -2.922 |
8 | 1:32.925 | 1:34.591 | -1.666 |
9 | 1:30.953 | 1:31.302 | -0.349 |
10 | 1:30.130 | 1:30.100 | 0.030 |
11 | 1:29.168 | 1:28.724 | 0.444 |
12 | 1:28.814 | 1:28.592 | 0.222 |
ハミルトンはオープニングラップのタンブレロで翼端板を破損した。メルセデスは当初、1周あたりコンマ5秒の損失を懸念していたが、破損したパーツがタイヤを痛める事なく完全に脱落した事が幸いし、ダメージはコンマ2・3秒にまで低下したという。
フェルスタッペンが1回目のピットストップに入った周のハミルトンとの差が2.65秒である事から、ダメージがなければハミルトンはフェルスタッペンに追い付いたものと考えられるものの、オーバーテイクが困難なイモラでラインが1本しかなかった事を踏まえれば、容易く追い抜けたとは考えにくい。
いずれにしてもメルセデスW12のこのウイークポイントは、シーズンを通してチャンピオンシップを戦っていく上で再び障害となるやもしれない。
なお今回のレースでは、メルセデス以外にもチームメイト間でパフォーマンスが大きく開いたチームが幾つかあったが、これに関してF1の競技部門を率いるロス・ブラウンが興味深い洞察を提供してくれている。
「私の経験上、同じクルマでこれほど大きな差が出るのは殆どの場合、タイヤの熱入れによるものだ。今回のレースではドライバーが自信を失ったわけではなく、思い通りにドライブできるマシンが得られず、タイヤの温度を十分に上げられなかっただけだと思う」
「例え僅かな違いであっても、タイヤを上手く機能させているドライバーとそうでないドライバーとでは、その差が大きく増幅されてしまう。実に恐ろしいことだ」