蘇るセナの異次元ドライブ…フェルスタッペン「ガレージ破壊衝動」からの形勢逆転4冠王手、シューマッハを塗り替える新たな伝説
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2024年のF1第21戦サンパウロGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)の4度目の世界選手権制覇の決定打となったレースとして、そしてF1の歴史に永らく語り継がれる伝説的な1戦として記憶されることだろう。
もはや最速に非ずと見なされるマシンに乗りながらも、数々のドライバーが足元をすくわれた難しいウェットコンディションでのその傑出した走りは、タイトル争いのライバルがポールを獲得する中、その劣勢を一気に覆す17番グリッドからの逆転勝利、6月のスペインGP以来となる11戦ぶりの勝利、そしてF1史上最も偉大な勝利の一つを可能足らしめた。
まさに”マスタークラス”、劣勢からの大逆転4冠王手
チーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーは、この日の勝利を「マスタークラス」と呼び、「ウェットでもドライでも、彼は現時点での世界一だ。これは彼のベストドライビングの一つだった。この勝利で彼は、偉大なドライバーたちと肩を並べる存在になった」と惜しみない賞賛を贈った。
1,121レースを誇るF1世界選手権の歴史において、17番手以下から優勝した例は僅か5回しかない。フェルスタッペンはこの日、ミハエル・シューマッハが持つドライバーズ選手権での896日連続首位という記録を塗り替えた。
4ヶ月以上も勝利から遠ざかり、レースに対する姿勢に批判もあった中でのこの勝利は、フェルスタッペンの非凡な才能を改めて示しただけでなく、4度目のワールドチャンピオンに相応しいものでもあった。
次戦ラスベガスGPでランド・ノリス(マクラーレン)より上位でフィニッシュすれば、それは現実のものとなる。
レース前の段階では、ノリスが逆転タイトルに向けて絶好のチャンスを手にしたかに思われた。土曜のスプリントレースで勝利し、日曜早朝に行われた予選でもポールポジションを獲得する勢いを見せていたのだ。
しかしながら、フェルスタッペンはこの形勢を覆す走りを見せた。
赤旗により12番手で予選Q2敗退を喫し、その上、6基目のICE(内燃エンジン)の投入により5グリッド降格の17番手からスタートすることになったが、赤旗を巡るレースディレクターへの怒りを集中力に変え、スタート直後の1周目に怒涛の6台抜きを披露した。
「今朝は本当に腹が立っていて、ガレージを壊そうかという気分だったけど、レースに勝ってやろうっていう決意に変わった。でも正直なところ、今日勝てたことには自分でも驚いてる」とフェルスタッペンは語った。
スターティンググリッドの上空に雨の気配が立ち込める中、フェルスタッペンは、このレースがどれだけ重要かを理解していた。
ここ数週間で僅か44ポイントまで縮まった選手権のリードは、酷く弱々しかった。日曜のレースでノリスがチャンピオンシップ争いの流れを変える可能性は十二分にあった。
「17番グリッドからのスタートだったし、本当に厳しいレースになることは分かっていた」とフェルスタッペンは語った。
「僕らはトラブルを回避し、正しい判断を下し、気を散らすことなく冷静さを保ち、そして飛ぶように駆け抜けた」
セナ彷彿の比類なきウェットドライブ
フェルスタッペンのインテルラゴスでの1周目の走りについてホーナーは、ブラジルの英雄アイルトン・セナが、ドニントンパーク・サーキットで行われた1993年のヨーロッパGPで5番手から首位に立った伝説的なドライブになぞらえた。
「マックスのスタートは目が覚めるようだった。1周目で6台抜いたんじゃないか?ターン3のアウトサイドを駆け抜けるあの走りは、まさにドニントンでのセナを彷彿とさせるものだった」とホーナーは称賛した。
「ターン1のレイトブレーキングで次々と追い抜いていったのは彼だけだった」
ターン1に向けてのブレーキングとラインは、他のどのドライバーも真似できないものだった。43周目にエステバン・オコン(アルピーヌ)を見事に追い抜く様は、ウェットコンディションでの並外れた才能を改めて示すものだった。これによってフェルスタッペンはトップに立った。
オコンはフェルスタッペンのブレーキングに舌を巻いたと明かした。
「フロントをロックさせることなく、イン側であんなに遅くブレーキをかけられるなんて、ホント驚いた。あれは良いオーバーテイクだった」
フェルスタッペンが豪雨の中で見せたパフォーマンスは文字通りの別次元だった。合計17周に渡ってファステスト・ラップを刻み、オコンに19秒差の圧勝を飾った。
フェルスタッペンは父ヨスと共に、幼少の頃から雨天での腕を磨いてきた。
「こういうコンディションには慣れてるんだ。若い頃からたくさん練習してきたからね。その時に培ったスキルが今に生きているんだと思う」とフェルスタッペンは振り返った。
この日の勝利に運が絡んだのは間違いない。フランコ・コラピント(ウィリアムズ)のクラッシュにより振られた赤旗は、ロスタイムなしでのタイヤ交換のチャンスをフェルスタッペンに与えた。
これによってフェルスタッペンが5番手から2番手に浮上した一方、ノリスは2番手から4番手に後退した。ノリスはレース後、赤旗中のタイヤ交換を許容するこの規則を嘆いたが、これは長らく存在するルールだ。
レッドブルはチャンスを最大化するための準備を整えていた。ステイアウトによってトラックポジションを得ることで、これを引き寄せることができると理解していた。マクラーレンもまた、ピットに入ることで何を失うかを理解していた。
赤旗の恩恵を受けたとて、フェルスタッペンにはまだやるべき仕事があった。オコンには前方のクリアな視界とクリーンエアーという大きなアドバンテージがあった。フェルスタッペンは、チャンスは必ず訪れると信じていた。
2024年シーズンはあと1スプリント、3レースを残すが、早ければラスベガスでの次戦でチャンピオンシップ争いは幕を閉じる可能性がある。
フェルスタッペンは「振り返ってみれば、この勝利は(タイトル争い)で本当に大きな意味を持つものだった。今日はリードを奪われるレースになると思ってたからね」とした上で、ベガスでのタイトル獲得については「クリーンなレースを目指すだけさ」と付け加えた。
ラスベガス市街地コースを舞台とする次戦ラスベガスGPは、11月21日のフリー走行1で幕を開ける。