明らかになったレッドブルのPU計画…ホンダF1の資産を引き継ぎ、独自エンジン開発に向けて解決すべき2つの課題

ホンダのロゴとレッドブルのロゴCourtesy Of Red Bull Content Pool

2022年シーズン以降に搭載するホンダの代替F1パワーユニット(PU)計画の全体像が見えてきた。レッドブル・レーシングが望む一番の解決策は、ホンダの資産を引き継ぎ独自にエンジンを開発・運用する方法で、これが実現不可能な場合にルノーあるいはフェラーリからの供給、または撤退を検討する事になる。

ホンダはカーボンニュートラル達成に向けて自社リソースを再配置すべく、来季末を以てF1での活動に終止符を打つ。現時点で再参戦の可能性はなく、ホンダと契約してF1パワーユニットの供給を受けているレッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリは、ホンダに代わる新しいPUの検討を余儀なくされている。


アイフェルGPが行われたニュルブルクリンクでは、ヘルムート・マルコとフェラーリのマッティア・ビノット代表が話し合う姿が捉えられていた / © Red Bull Content Pool

現在F1にPUを卸しているメーカーはホンダを含めて4つ。2014年から続く現行の1.6リッターV6ハイブリッド・ターボエンジン時代において最強の称号を持つメルセデスは4チーム体制となるため、トト・ウォルフ代表は供給能力を理由にレッドブルとの提携の可能性を除外。選択肢は残る2チームのみとなっている。

新規参入メーカーを待つというシナリオもあるが実現の可能性はゼロと言い切って良いだろう。各自動車メーカー達は、2015年から1年遅れでハイブリッド時代のF1に参戦したホンダの有り様を見ている。如何ほどの大金をつぎ込み、どれだけの成果を上げ、そしてリターンがあったのか。現行PUが続く限りF1はメーカーにとって魅力あるものとは言えず、8年遅れで乗り込む大義名分もインセンティブもない。

レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコはAvDモータースポーツ誌とのインタビューの中で、現時点で現行仕様のPUが継続されるのが2025年までとなっている事に触れて、2022年以降の新規参入が見込めない理由を次のように説明する。

「現在のところ、新しいエンジンメーカーが加わる兆候はない。それは(現行PUが継続される22年~25年までの)僅か4年という短い期間が理由だ。エンジンは複雑すぎる上に、コストが高すぎる。今のレギュレーションでは、F1に新しいメーカーを持ち込む事はできない」

かと言って、レッドブルはフェラーリあるいはルノーからPUの供給を受ける事を望んでいるわけではない。ヘルムート・マルコは「すべてのマニュファクチャラー達は独自のチームを持ち、シャシーとエンジンを一体で作り上げている。(カスタマーエンジンを搭載する立場となれば)まずはエンジンを入手し、それを中心として車体を構築しなければならない」と述べ、カスタマーエンジンを使用する事の”無意味さ”を強調した。


ヘルムート・マルコと話をするホンダF1の山本雅史マネージング・ディレクター / © Red Bull Content Pool

他社のパワーユニットを購入する”カスタマーチーム”となれば、技術的な課題に直面した場合、エンジン側の都合を優先せざるを得ず、車体側の妥協を強いられる事になる。であるが故に、F1世界選手権4連覇を誇り、通算表彰台獲得率60.2%(2020年アイフェルGP終了時点)を誇る屈指の強豪チームは、独自ソリューションを第一に考えている。

ヘルムート・マルコは「交渉が上手くいけば、ホンダのベースを引き継いで、ミルトン・キーンズでエンジンを準備することを希望している」と述べ、ホンダパワーユニットをベースに独自エンジンを開発する事が最も可能性が高いシナリオだと初めて公に認めたが、実現のためには解決しなければならない大きな課題が二つある。

それはレギュレーションによるパワーユニット開発の凍結と、英国ミルトンキーンズに位置するファクトリー並びにPU関連の知的財産権を含めたホンダが持つ資産の引き継ぎだ。ヘルムート・マルコは「幾つかのパラメーターが必要」であるとして、次のように説明する。

「2022年の第1戦から開発がストップした場合にのみ可能となる。我々は可能な限り早く決定するようFIAに求めている。これがクリアできれば、次のステップはホンダとの合意に達することだ。ミルトンキーンズには複数の建物やホールがあるが、何処を使う必要があるのかを現在検討している」

このプロジェクトを成功させるには、パワーユニット開発・製造・運用を担えるだけのノウハウと人材を備えた独立系エンジニアリング会社が必要となる。

例えば英国のレース専門エンジンビルダー「イルモア」や、エイドリアン・ニューウェイが手掛けたアストンマーチン・ヴァルキリーのV12エンジン開発に携わった「コスワース」の他、ホンダと切っても切れない関係にある「無限(M-TEC)」などが挙げられる。V6ハイブリッド最強PUを作り上げたメルセデスのアンディ・コーウェルが2022年に獲得可能となる状況となる事も、レッドブルの背中を押しているものと見られる。

だが、いずれもF1パワーユニットのサプライヤーとして実績があるわけではない。勝てるエンジンを用意する事ができるのだろうか? ヘルムート・マルコは楽観的だ。

「現在のエンジンメーカー間のパワー差は15馬力程度、最大でも20馬力だ。フェラーリのエンジンはもう少し後手に回っているが、すぐに追いつくと推測している」とヘルムート・マルコは語る。

「それに、(メーカー間の競争力是正のために)燃料流量などのパラメーターでエンジン性能を調整するという議論も出ている。よって、我々は正しい道を歩んでいるということになる」

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