開発トークンは何処に? メルセデス技術責任者ジェームズ・アリソンが語る2021年型「W12」
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2021年型「メルセデスAMG F1 W12 E Performance」は、グリッドを席巻した先代「W11」をベースとして、サスペンション、冷却システム、パワーユニットの改良に加えて、大幅な空力的変更が加えられた。
カラーリングとしてはブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)をサポートする黒を基調としたカラーリングが継続され、「AMG」のプロモーション強化を目的としてリア側に伝統的のシルバーが取り入れられた。
メルセデスは今後発売される全てのAMGハイブリッドカーの製品名に「Eパフォーマンス」という呼称を用いる事を決めており、W12はシャシー名にこれを採用する初のF1マシンとなる。2021年の新しいカラーリングはこれを反映したもので、”スリーポインテッド”に代わりエンジンカバーには大量の「AMG」が配された。
差し色として車体全体の印象を引き締めているのは、前後ウイング、ノーズ、ミラー、ヘイローに施されたタイトルパートナーの”ペトロナスグリーン”と、エアボックスとフロントウイング翼端板内側に施されたINEOSレッドだ。
今季レギュレーションはエアロダイナミクスを制限した。無論、W12もこのルールに沿うように開発が進められた。リアタイヤ前方のフロアは三角形状にカットされ、バージボード周辺のスリットは廃止。リアブレーキダクトやディフューザーにも制限が加えられた。
リアブレーキダクトのウィングレットは、それ単体でダウンフォースを発生されるが、量としては大きくはない。主な役割はフロアからリアタイヤ側へと流れる気流をコントールする事で、フロアが発生させるダウンフォースを増加させる点にある。ではフロア形状の変更はどのような意味を持つのだろうか?
メルセデスのテクニカル・ディレクターを務めるジェームズ・アリソンは「クルマのスピードを落としたいのであれば、フロアを変更することが最も安価かつ容易だ。この部位は僅かな幾何学的変更が性能を大きく低下させる。それほど空力的に重要なパーツなのだ」と説明する。
「今年の空力規約変更の中でも最も大きな影響を及ぼすのが、フロア端の三角形のカットアウトだ。これは後輪のすぐ前に位置しており、フロア面積を縮小するものだ。大きな変化には見えないかもしれないが、フロアと後輪との相互作用は車の性能にとって非常に重要な要素なのだ。そのため、フロアのこの箇所が取り除かれるとダウンフォースに大きな影響が及ぶ」
ではディフューザーのストレーキ変更は一体どのような影響を及ぼすのだろうか?
「ディフューザーの設計に際しては、ディフューザーの表面を沿うように流れる気流を車体側に留めつつ、できるだけ空気を膨張させる事を考える。膨張率が高いほどフロア下部が低圧となり、吸引力が増してマシンが路面側に引っ張られる事でダウンフォースが大きくなる」とアリソン。
「ただし、欲張り過ぎて空気を急速に膨張させてしまうと、気流はディフューザーの形状に沿って流れずクルマから離れていってしまう。これは失速と呼ばれており、ダウンフォースを劇的に減少させる」
「失速させないよう積極的に空気を膨張させるコツの一つは、”ディフューザー・ストレイキ”と呼ばれるフェンスを使用して、ディフューザーを個別領域に分離する事にある」
「今年はマシンのセンターラインに最も近い内側のストレーキの長さが従来より50mm短くなった事で、地面から遠ざかってしまった。ストレーキが短くなった事でディフューザの個別分割の効果が小さくなってしまい、結果として空気の膨張率を制御する効果が小さくなった」
メカニカルコンポーネントの多くが開発凍結となる中、注目は与えられた2個のトークンを投じて開発を進めたエリアだ。アルファタウリとアルファロメオはフロントエンド、レッドブル・ホンダは公表していないが恐らくリアエンド、マクラーレンはメルセデスPUへの切り替えに際してこれを投じた。
開発トークンに話が及ぶとアリソンは「トークンを使い切ったが、その使い道はまだ明らかにしない。そのうちに明らかになるだろう」と言及を避けた。