明かされた真実…メルセデスF1、優位性維持のために隠し続けたエンジンの真の実力
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メルセデスF1パワーユニットは2014年から始まったV6ハイブリッド時代のベンチマークであり続けてきたが、チーム代表のトト・ウォルフとダイムラー取締役の政治的機転がなければ、その歴史は今知られるものとは少し違った形になっていたかもしれない。
2013年から2017年までメルセデスの最高技術責任者を務めたパディ・ロウによると、パワーユニット(PU)部門のトップ、アンディ・コーウェルは2014年のプレシーズンテストまで「完全に自信を失った様子」で、自分達が開発したPUのパフォーマンスと信頼性に疑念を持っていたという。
だが、初の実地機会となった2014年のプレシーズンテストで初めて、メルセデスは自分達が作り上げたPUがライバルから頭一つ飛び抜けた圧倒的な性能を有している事に気づき、シーズンの大部分でエンジンパワーを抑える事を決断した。それは規約変更によって自分達のアドバンテージが奪われないようにするための政治的機転だった。
パディ・ロウはF1公式ポッドキャストの中で2014年のプレシーズンテストを振り返り「1回目のテストを終えて2回目のテストに入ると、名前は伏せるが、他のチーム(恐らくルノーエンジンを積む前年王者のレッドブル)が絶望的に混乱していることが明らかになった」と語った。
「それから我々は別のアップグレードをバーレーンテストに持ち込んだ。それは文字通りのボルトオンだったが、これによって我々は一気に馬力を上げ、コンマ7~8秒を追加した。とんでもなく大きな出来事だった。この時点で自分たちがかなり特殊な領域にいることが分かった」
自信が持てないままにテストに持ち込んだ2014年型メルセデス「PU106A Hybrid」は、思いも寄らない著しい優位性を発揮した。結局このシーズンのメルセデスはルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグの2台が19戦中16勝、なんとポールポジションに関しては18回という圧倒的成績を収めた。
だが、それでもこの数字は手の内を隠した状態のものだった。パディ・ロウは、この年のメルセデスの優位性はパワーユニットだけでなく「誰よりも優れた空力」のおかげでもあったとしながらも、メルセデスがシーズンの大部分で最大出力モードを隠していた事を明かした。
パディ・ロウは「刺激的ではあったが、他のストレスもあった」と述べ「想像してみてほしい。トトとダイムラーの取締役会が、見栄えが良すぎることによるネガティブな政治性を心配していたんだ」と語った。
メルセデスはライバルとのギャップが実際以上に小さく見えるよう、予選でエンジンパワーを制御して意図的にラップタイムを遅くするアプローチを取った。
パディ・ロウによるとQ1とQ2は勿論だが、ポールポジションを決する最終Q3でも同じ様に「ある種のアイドルモード」でエンジンを運用していたという。そのためピットウォールに座るパディ・ロウとトト・ウォルフとの間では、ライバルチームが唖然とするようなやり取りが行われていた。
問題はQ3でどの程度のパワーを許容するかで、両者は常に議論し合う事になった。パワーを制御し過ぎてしまい本来穫れるはずのポールを逃すのは「間抜けな人間」のやる事と考えるパディ・ロウは、安牌を切って高めのモードを進言するが、トト・ウォルフから「それはやりすぎだ、それはやりすぎだ」と、よく反論されていたという。
「どの番号を選べばいいのか、どうすれば良いのか。土曜の午後はそういった話で盛り上がっていた。楽しかった」とパディ・ロウ。
「実はコレ、かなり長い間続いていたんだ。2014年シーズン中にあのエンジンが予選でフルパワーになることは殆どなかった」
メルセデス上層部が真の実力を隠した背景には、当時のF1を牛耳っていたバーニー・エクレストンの存在もあった。エクレストンは新しいエンジンレギュレーションを真っ向から否定していた。
「バーニーは『これは悪夢だ、このエンジンは本当に酷い』と言いまくっていた。つまり我々メルセデスがとんでもなく良いという事が分かれば、何か対策を講じなければと考えた事だろう」とパディ・ロウは付け加えた。