F1キャリアの転機到来…ペレスの新契約が角田裕毅に与える影響とシナリオ、2025年シート戦争を読み解く

角田裕毅(RBフォーミュラ1)、カルロス・サインツ(フェラーリ)、バルテリ・ボッタス(ザウバー)、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)、ジャック・ドゥーハン、オリバー・ベアマン、周冠宇(ザウバー)Courtesy Of Red Bull / Ferrari / Sauber / Alpine

セルジオ・ペレスがレッドブル・レーシングと2年の契約延長にサインした事は、角田裕毅(RBフォーミュラ1)にとってF1キャリアのターニングポイントとなり得る出来事だと言える。

ルイス・ハミルトンの後任は発表されていないが、アンドレア・キミ・アントネッリがメルセデスを射止める可能性は益々高まっており、レッドブル、マクラーレン、フェラーリを含むトップ4チームに角田裕毅が座るシートがない事はほぼ疑いない。

そこで残りの6チームのシート争いの状況を整理しつつ、2025年以降の角田裕毅のシナリオを以下に考察する。

再考必至のキャリア計画、RB単年契約のリスク

レッドブル・ファミリーの一員として、一貫してキャリアを歩んできた角田裕毅は常々、シニアチームへの昇格が最優先事項だとしていたが、クリスチャン・ホーナー代表がペレスを選んだ事で、少なくとも2027年までその夢が実現する事はなくなった。

中国GPを除いて角田裕毅は今年、僚友ダニエル・リカルドを圧倒しており、リカルドがマイアミで稼いだポイントがなくともコンストラクターズ選手権6位と、今シーズンのRBは角田裕毅の活躍を背景に明確なミッドフィールド最速のチームとして君臨している。

一方で、年間3,500万ドル(約55億円)とも噂されるVISAのタイトルスポンサー契約の要因と考えられているリカルドが今季限りでシートを失う可能性は現時点では決して大きくはなく、ベンチには将来が有望視されるリアム・ローソンが控えている。

ゆえに角田裕毅が今季末限りでRBのシートを失う可能性はゼロではないが、ピーター・バイエルCEOが「是非」と熱望しているように、来季のオファーを受ける、あるいは既に受けている可能性は十分にある。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

10位入賞をピーター・バイエルCEOやチームと喜び合う角田裕毅(ビザ・キャッシュアップRBフォーミュラ1)、2024年4月7日(日) F1日本GP(鈴鹿サーキット)

VCARB 01の競争力と上昇気流にあるチーム状況だけに目をやれば、角田裕毅が自発的にRBを去る理由はないように思われるが、グリッドに並ぶ全てのチーム、そしてドライバーは2025年のみに焦点を当てているわけではない。

今日(2024年6月6日)の日本時間22時30分に初公開される2026年の新たなレギュレーションは、現在の序列を根底から覆し、各チームの競争力を白紙に戻す事となる。

技術チームに対し、前季型との比較を通してクルマの開発を迅速かつ効果的に進める上で有益なフィードバックを可能にする事などから、チームは2025年と2026年のラインナップに継続性を求めている。

2025年のみのRBとの単年契約は角田裕毅にとってリスクになり得る。移籍候補となるチームが軒並み、2026年までのラインナップを確定させた場合、2025年末でシートを喪失すれば行き場を失う。

また、RBが2026年以降に搭載する事になる新興レッドブル・パワートレインズのパワーユニット(PU)は、フォードの全面的な技術支援があるとは言え実績はなく、その競争力に対する懸念は絶えない。

ただこれは、マックス・フェルスタッペンのレッドブル早期離脱の要因となる可能性もあり、仮に2025年末でメルセデスに移籍した場合、RBに残留していれば角田裕毅にチャンスが回ってくる可能性がある事を意味する。

しかしながら開幕8戦を経てペレスと同じ回数だけ予選Q3に進出し、リカルドを完膚なきまで打ち負かし続けてなお、レッドブル首脳陣が真剣な候補と見なさなかったという事実は角田裕毅にとってかなりネガティブだ。RBに残るにせよ、キャリアプランの再考は必至だろう。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

パドックで談笑するレッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表とヘルムート・マルコ、2024年2月29日(木) F1バーレーンGP(バーレーン・インターナショナル・サーキット)

レッドブルでのキャリアの道筋が絶たれたと角田裕毅が感じているのであれば、他のチームに目を向けるのは合理的な選択だと言える。実際、パドックでは移籍濃厚との見方も散見される。

ただその場合、ライバルチームはレッドブルに金銭を支払わなければならないかもしれない。

ヘルムート・マルコがかつて示唆していたように、レッドブルとの角田裕毅の現行契約には複数年の縛りを可能にする条項が含まれている可能性がある。RBのドライバー達はレーシング・ブルズ社と契約しているわけではなく、レッドブルと契約を結びレンタルという形でファエンツァのチームでレースをしている。

ホンダ次第か、アストン

将来に対する期待値が最も大きいのは間違いなくアストンマーチンだ。ジュニア時代から角田裕毅を支えてきたホンダは2026年以降、シルバーストンのチームとタッグを組み、PU一式を供給する。

Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

本田技研工業株式会社の三部敏宏代表執行役社長とアストンマーチンF1のローレンス・ストロール会長、2023年5月24日の2026年パートナーシップ締結発表会見にて

しかしながら2度のF1ワールドチャンピオン、フェルナンド・アロンソは少なくとも2026年末までアストンに留まる事が決まっている。

また、チームオーナーを父に持つランス・ストロールの席は原則、無期限に安泰と考えられており、ドライバーラインナップの決定に関与しないと公言しているホンダが説き伏せない限り、レッドブルと同じ様に少なくとも2027年まで角田裕毅にチャンスはなさそうだ。

ローレンス・ストロールが息子のキャリアを信じるというのは人間的に共感の持てる物語だが、スポーツという観点で言えば全く当てはまらない。

これまでのF1キャリアを通してストロールに幾つかのハイライトがあった事は確かだが、2018年のセルゲイ・シロトキンを除いてチームメイトを明確に上回ったシーズンはなく、客観的に見て同じシートがあればストロールより優れた仕事をするであろうドライバーは何人もいるだろう。

サインツ濃厚か、ウィリアムズ

他の中団チームに関しては、兎にも角にもカルロス・サインツ(フェラーリ)次第だろう。マーケットで最も高く評価されているドライバーの行先が決まらない事には他のシートも決まらないのが道理だ。

レッドブルの扉が閉まった事で3度のグランプリウィナーは、ビジョンが見えず未知数まみれのザウバー(アウディ)か、中長期的視点で復権に取り組む既知のウィリアムズのいずれかを決断する事になるだろう。

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

イモラ・サーキットのグリッドを歩くカルロス・サインツ(フェラーリ)、2024年5月19日(日) F1エミリア・ロマーニャGP決勝レース

過去に様々なカテゴリーで成功を収めてきた一方、F1での実績がないアウディの新しいプロジェクトに信頼を置くのか? それともF1で輝かしい成功を収めてきた歴史を持つ一方、近年はフィールドの下位に沈んでいるウィリアムズに信頼を置くのか?

サインツがウィリアムズを選ぶ可能性は十分にある。

アレックス・アルボンは2026年のメルセデスPUと、ジェームズ・ヴァウルズ代表の手腕に大きな信頼を寄せている。一方でアウディの車体開発を担う事になるスイス・ヒンウィルのチームは今季開幕8戦を終えて唯一ノーポイントと、ランキング最下位に沈んでいる。サインツが決断を保留し続けるのも頷ける。

アルピーヌ、ガスリーとの再タッグ

中団唯一のワークスであるアルピーヌが角田裕毅を追い求める理由は十分にある。モナコでの一件、つまりエステバン・オコンが僚友ピエール・ガスリーに衝突した事で、その価値は一層、高まったと言えるだろう。

ガスリーは依然として来季のシートが決まっていないが、残留は彼にとって最善の選択肢の一つであろうし、オコンの離脱が決定した今、チームがガスリーとの契約更新を熱望しているであろう事に疑いはない。

アルファタウリ時代にガスリーと良好な関係を築いてきた角田裕毅はアルピーヌにとって、マーケティング的観点からも魅力的なオプションと言える。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

ピエール・ガスリー(アルピーヌ)と話す角田裕毅(スクーデリア・アルファタウリ)、2023年3月5日(日)F1バーレーンGP(バーレーン・インターナショナル・サーキット)

一方で角田裕毅にとってのアルピーヌが魅力的かと言えば話は異なる。悪名高き5カ年計画を含め、アルピーヌはルノー時代から尽く長期目標の達成に失敗してきた。今季はコンストラクターズ選手権9位と、目も当てられない惨状だ。

アルピーヌの有力候補の一人はリザーブ・ドライバーのジャック・ドゥーハンだ。オコンに代わって出走するカナダGPのプラクティスは、当然に来季に向けての判断材料となる。

アルピーヌからFIA世界耐久選手権(WEC)に参戦するミック・シューマッハに関しては、マネージャーのザビーネ・ケームが最近、頻繁にパドックで目撃されているが、来季アルピーヌF1の有力候補とは見なされておらず、インディカーに参戦するデイル・コインと初期的な話し合いの場を持っている。

ダークホースは元ルノーアカデミー所属の周冠宇(ザウバー)だ。

アルピーヌはワークスではあるものの、レッドブルやフェラーリ、メルセデスのような水準の投資を受けているとは思えない。チャイナマネーを持つ周冠宇とその支援者は、株式の取得を含めてエンストンのチームに資金をもたらす可能性が取り沙汰されている。

Courtesy Of Sauber Motorsport AG

周冠宇(ザウバー)、2024年3月21日F1オーストラリアGPフリー走行

ハース、新生とベテランコンビ

小松礼雄率いる新生ハースはRBに次ぐコンストラクターズ選手権7位と活躍しており、将来有望なチームとして浮上しているが、ニコ・ヒュルケンベルグはザウバーへの移籍が決まっており、ケビン・マグヌッセンの契約は今年末で終了するため、シートは2つとも空いている。

しかしながら実質的に空きがあるのは1つだろう。契約の締結には至っていないものの、小松礼雄はフェラーリのフレデリック・バスール代表と定期的に話し合いの場を持ち、サウジアラビアGPでサインツの代役を務め、そのデビュー戦でポイントを獲得したオリバー・ベアマンの起用にほぼ合意したと噂されている。

Courtesy Of Haas

ハースのレーシングスーツを着用したオリバー・ベアマン、2023年11月24日F1アブダビGP

現アルピーヌの二人のドライバーも名前が取り沙汰されているが、オコンはモナコでル・マン24時間レースやWECの素晴らしさを絶賛しており、新天地でのチャンスを高めたいとの狙いがうかがわれる振る舞いが目についた。

ベアマン以外の有力候補はバルテリ・ボッタス(ザウバー)だ。新進気鋭で将来有望な若手と、経験豊富なコンストラクターズ選手権チャンピオン経験者のコンビはハースにとって理想的なラインナップと言える。

ハースのシートには角田裕毅の名前も挙げられているが、金を積んでまで手に入れようとするジーン・ハースの姿をイメージするのは中々に難しい。


このように見ていくと、角田裕毅にとっての実質的な移籍オプションは、サインツが断りを入れた場合のザウバーか、アルピーヌと言ったところだろうが、いずれも決して魅力的な要素を備えているわけではない。

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