F1王者ハミルトン、SNSでのセクハラ炎上事件を謝罪。LGBT団体を中心に猛抗議

ルイス・ハミルトンcopyright formula1.com

12月27日、ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)は、自身の不適切な発言について謝罪した。今年4度目のF1ワールドチャンピオンを手にした英国のレーサーは、女装した甥っ子の動画を26日にInstagramに投稿、その中で「男は女装すべきでない」と受け取らねかねないステレオタイプな発言をし、甥を罵倒するかのような大声を張り上げた。

この投稿は、性の多様性及びアイデンティティの尊重を訴えるLGBT支援団体「Pride in London」を中心に、各方面からの猛反発を受け炎上した。LGBTは、女性同性愛者(レズビアン)、男性同性愛者(ゲイ)、両性愛者(バイセクシュアル)、トランスジェンダーの各単語の頭文字を組み合わせた表現であり、性的マイノリティーを表す。

動画の中でハミルトンは、紫とピンクのプリンセスドレスを着用した若い男の子をカメラに収め、次のように問いかけた。「どうしてプリンセスドレスを来てるの?クリスマスのプレゼント?」小さな男の子が「うん、好きなんだ」と答えると、ハミルトンは続けて「どうしてクリスマスにプリンセスドレスを頼んだの?」と返し、怒鳴るように言った。「男の子はプリンセスドレスなんか着ないんだよ!」

このビデオは多くの波紋を呼んだ。英国のゲイ雑誌「attitude」のチーフエディターを務めるマット・カインは「とんでもないことだ。ルイス・ハミルトンは、公共の場で小さな子をいじめた事を恥じるべきだ。彼の発言は不愉快だ」とコメント。また、パフォーマンス・アーティストのトラヴィス・アラバンツァは「ハミルトンがビデオ内での行いについて謝罪する事を願っている」と語った。

当該投稿には数千を越えるリプライが殺到し、ハミルトンは撤回を余儀なくされ問題の投稿を削除、次のように釈明した。

「昨日僕は甥っ子と遊んでいた。僕の発言は不適切だったと気づいたから投稿を削除した。誰かを怒らせるつもりはなかったんだ。甥が自分自身を自由に表現することは素晴らしいことだと思っているし、そうすべきだと思っている」

「自分の行いを心の底から謝りたい。誰にとっても受け入れ難いものだと気付かされた。どこの出身の人間であっても、阻害したり既成概念にはめ込んだりすることは決して受け入れられるものじゃないって事に気づいた。どうか許して欲しい」

ここ数日、「#MeToo」ムーブメントの影響もありセクシャルハラスメント問題が大きく注目を浴びている。日本においては今年、元TBS記者・山口敬之氏からのセクハラ問題を告発した伊藤詩織氏から大きな流れが生まれた。横文字である事が表すように、海外の概念を翻訳・輸入する形で発生した”ハラスメント”は、日本国内で共通理解を得て定着した言葉とは言い難い。

元電通社員の伊藤春香氏(はあちゅう)が同じく元電通の岸勇希氏のセクハラを公にした一件では、告発者本人が別件でセクハラをしているとの批判を受け炎上。当人が断固これに反発したため、ハラスメント撲滅運動の焦点がずれてしまう事態となるとともに、日本語の”セクハラ”がご都合主義に延長にある残念な実態が浮かび上がった。

現代日本において使われる言葉の多くが明治開国以降に”輸入”されたものである事は意外と知られていない。「自由」「平等」「権利」などなど、所謂”概念”としてみなされる多くの事柄は、日本人が必要に応じて自ら勝ち取った”血肉溢れる”ものではない事が少なくない。ハラスメントもご多分に漏れず、その解釈は個々人によって相当の相違があると言える。

ハラスメント(harassment)を辞書で引くと「悩ますこと」「嫌がらせ」と出てくるが、弁護士の下中晃治氏は自身のブログで「1,繰り返される執拗な攻撃と非難により苦しめること。2,苦しめられて生じる強いいらだち。の訳の方が,実際のニュアンスに近い」と語り、”抑圧”に近い意味合いを持つと指摘

2015年に発表された電通ダイバーシティラボの調査では、日本におけるLGBTは総人口の7.6%とされ、性的少数者である事に悩む人が少なくない事が指摘されている。用いる用語や概念の共通理解が得られて初めて、議論は意義あるものとなりうる土壌が整うが、セクハラの定義について深く議論・周知されていない現状では、実りある将来は程遠い。

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