F1オーナーのMotoGP買収、EU競争法への抵触の可能性は如何ほどか?リバティの”自信”の背景にある市場変化

ロードレース世界選手権(MotoGP)レースの様子、2024年Courtesy Of Liberty Media

F1の商業権を持つリバティ・メディアによるロードレース世界選手権(MotoGP)の買収が発表された。欧州連合(EU)を含む各国の競争法に抵触する恐れはないのだろうか?

買収の噂は昨年末から囁かれていたが、イマイチ眉唾感が否めなかった。それは2006年の前例があったためだ。

当時、MotoGPを所有していたCVCキャピタル・パートナーズは、F1の買収を試みた際にEU規制当局から目をつけられた。

そこでCVCはドルナの売却を条件に当局の承認を得て、取引完了にこぎ着けた。F1はその後、2016年にリバティ・メディアに売却された。

買収は2024年末までに完了する予定だが、リバティ・メディアとドルナは「管轄区域の競争法当局や外国投資法当局による許可や承認を得ることが条件」と認めている。

先の前例にも関わらず、リバティ・メディアのグレッグ・マフェイCEOは「当局の承認を経て、シーズン末までにMotoGPの買収を完了させる事に大いに自信を持っている」と語った。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブルのチーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーとリバティ・メディアのグレッグ・マフェイCEO、2022年10月30日にエルマノス・ロドリゲス・サーキットで行われたF1メキシコGPにて

その自信は何処から来るのか?

マフェイCEOは、スポーツおよびエンターテイメント業界は非常に広範囲に渡る市場であるとした上で、F1とMotoGPは「そのごく一部に過ぎない」と述べ、おそらくは2006年の事だろうが「マーケットは以前に審査された時から変化し続けている」と指摘した。

また、「両シリーズを一つのパッケージとして扱ったりするつもりはない。両シリーズは別個のものだ」とも述べ、レース主催者に対して両シリーズの共同開催契約を持ちかけるような事はないと主張した。

「我々が意図しているのは、F1で得た幾つかの学びと、MotoGPを露出させる機会を活用することであって、2つ(F1とMotoGPそのもの)を活用する事ではない」

「したがって、規制面に関しては大いに自信を持っている」

競技統括団体やチーム、メーカー、そして開催コースに関して、2006年当時のF1とMotoGPは市場が殆ど重複していなかった。

当局が問題視したのは、スペインとイタリアのテレビ放映権市場に関して「著しい水平的な重複」があったためで、放送事業者に対してCVCが交渉上優位な立場となり、不当な価格上昇の恐れがあるとの判断が示された。

リバティ・メディアのレネー・ウィルム最高法務責任者(CFO)は、CVCに関する決定が下された当時と比べてメディア環境は大きく変化していると指摘する。

「CVCの決定は約20年前のもので、綿密な調査や不服申立てのプロセスが行われる事はありませんでした。彼らは兎に角、さっさと結論を出して先に進むことを選んだのです」

「我々は規制当局と速やかに対話をスタートさせました。そしてグレッグが述べたようなあらゆる点を伝え、過去20年間でメディアを巡る状況が変化している事を指摘しました」

「こうした点から我々は、この取引を迅速に成立させる事ができると大いに自信を持っています」

2006年当時のMotoGPとF1のビジネスモデルは無料のテレビ放送を軸としたものであったが、有料放送化やオンライン配信など、今や状況は大きく異なっている。

マフェイCEOはまた、リバティ・メディアが取っているアプローチは、CVCが過去に取ったそれとは根本的に異なると述べ、自分達には当局の承認を得るためのプロセスを慎重に進める余裕があると主張した。

「CVCの経営陣と話したことがあるが、彼らはF1を買収する取引を成立させる上で厳しい時間枠に置かれていた。彼らは規制に関わる手続きを進める時間がなかった」

「我々は同じような時間的プレッシャーに晒されていない。当局とのプロセスはスムーズかつ迅速に進むと信じているが、我々は彼らが必要とするだけの時間をかけるつもりだ」

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