2024年のハースF1は一味違う? 鍵は「クローズドループ」小松礼雄が描く開幕”後方”からの浮上の道のり
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ハースは例年、好調にシーズンを切るものの、その後、ライバルチームとの開発競争で遅れを取り、後半に向かって失速していく傾向があった。ギュンター・シュタイナーに代わる新たなチーム代表、小松礼雄は、このような事態を繰り返さぬための戦略があると主張する。
2024年シーズンに向けて技術レギュレーションに大きな変化はなく、更に昨年のオースティンでのアップグレードの準備のためにVF-24の開発が2ヶ月中断したため、ハースはシーズン序盤の成績にあまり期待していない。
2024年型「VF-24」のコンセプトの原型は、昨年のアメリカGPで投入されたアップグレードにある。「側面衝突構造、ラジアルダクトの配置、冷却系のレイアウトなどの物理的な制限」により完全にそれを実現できたわけではなかったが、結局は1台を旧仕様にロールバックするなど、成果は散々だった。VF-24はそんなVF-23、昨年のコンストラクターズ選手権で最下位に終わったマシンの延長線上にある改訂版に過ぎず、飛躍を期待する方が難しい。
開幕バーレーンGPでのチームのポジションについて小松礼雄は「最後尾ではないにせよ、グリッド後方」に留まるとの予想を示し、まずはローンチスペックのクルマについての理解を深め、進めていくべき開発の方向性を特定できるよう、良質なテストプログラムを用意する事が重要との認識を示した。
また、昨年はドライバーによるフィードバックによってクルマの弱点が明確になっていたにも関わらず、それを実際の開発に反映させる事ができなかったとして、ドライバーのフィードバックを開発プロセスに組み込む事が必要だと指摘した。
目標を達成するため最も重要な事は、今の状況を正確に理解し、目的地までの道を描くことだ。スタート地点が正確に特定できていなければ、ゴールまでのルートを誤るのは必然である。過度な期待の不在は必ずしも悪い兆候を示すわけではない。
ハースの課題の一つは開発競争だ。好調にスタートしつつもシーズンを経る毎に失速する傾向がある。開幕”後方”が現実的である以上、今季はこの課題を克服せずして昨季を上回る成績はあり得ない。
「だからこそ技術面で組織体制に変更を加えているのです。実際のコース上で見つけ出したものをマシン開発に確実に反映させるためにね」と小松礼雄は語る。
小松礼雄によると以前の組織体制においては、コース上で見つかった問題や改善点をエアロダイナミクス、風洞実験、CFD(計算流体力学)部門へと効果的に伝達し、それらの情報を基にしてアップグレードを行う「クローズド・ループ」が明確に存在せず、そのためシーズン中に適切なアップグレードを投入する事が難しかったという。
「クローズド・ループ」とは、発見された問題やデータを収集し、それを分析・解釈して、具体的なアクション、この場合はクルマのアップグレードに繋げ、その結果を再び評価する一連のプロセスを意味する。
この問題を解決するためにチームは、トラックサイドで見つけたものが各開発部門へとスムーズに伝達されるよう組織体制に変更を加えた。
「たとえ意見の相違があるとしても、今では何故自分たちが、ある特定の方法でクルマを開発しているのかについて誰もが明確に理解しています。クルマの性能を引き上げられず、シーズン中に後退していた主な理由の1つがこれでした」と小松礼雄は語る。
「今は既に、そういう風に取り組んでいますし、透明性、オープン性、コミュニケーションは遥かに良くなっています。なので今年はクルマを適切にアップグレードできる可能性がずっと高くなっていると信じています」
チームはシーズン開幕に向けて、シモーネ・レスタと共に2021年にハースに加わったアンドレア・デ・ゾールドをテクニカル・ディレクターに任命。新たにパフォーマンス・ディレクターを設け、車両パフォーマンス部門を率いていたダミアン・ブレイショーにその役割を託すなど、技術部門を再編した。
チーム代表の交代が発表されたのは年明け早々の1月10日だった。VF-24のシェイクダウンまでは僅かに1ヶ月。小松礼雄は「理想的なタイミングではなかった」と振り返りつつも「混乱を最小限に抑える事ができた」と明かし、チーム体制が定まった事で、今後は全力で邁進していくと誓った。