レッドブル・ホンダ、王座戦影響必至の4基目エンジン…フェルスタッペンは降格ペナをいつ消化すべきか?
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タイトル戦を決定付けかねない致命的なハンデとなるグリッド降格ペナルティをレッドブル・ホンダは何処で消化するのだろうか? マックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスは共に4基目のエンジン投入が避けられない見通しだ。
4基目投入とリード喪失はメルセデスのせい、とマルコ
フェルスタッペンはイギリスGPでのルイス・ハミルトンとの接触事故によってリタイヤを強いられ大量ポイントを失っただけでなく、事故の衝撃が直接の原因とみられるクラックがシャシーに近い箇所で発見された事で、ハンガリーGP決勝を前に急遽3基目のICE(内燃エンジン)、ターボチャージャー、MGU-H、MGU-Kの投入を強いられた。
更にレースでは1周目にチームメイトのペレスがバルテリ・ボッタスを起点とするクラッシュに巻き込まれた。クルマは勿論、パワーユニットも再利用不能な損傷を負ったものと見られており、チーム代表のクリスチャン・ホーナーを含むチーム首脳陣は2台共にシーズン中の4基目投入は避けられないと考えている。
レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコはSPEEDWEEKとのインタビューの中で「前半戦は予想以上に上手くいった。シャシー、エンジン共にメルセデスと同等レベルにつけており、マックスのドライビングは素晴らしく、これまでで最高の状態に仕上がっている」と前向きな姿勢を強調する一方でライバルを強く非難した。
「自分たちには何の落ち度もないのに、ハミルトンがリアホイールに衝突したことでフェルスタッペンは恐ろしいスピンを喫した。確実だった勝利を奪われただけでなく、これによって150万ユーロ(約1億9,4000万円)以上の損害を被った」
「更に、ハンガロリンクでの予選後にエンジンにダメージが残っている事が判明した。つまり、どこかの時点で4基目のドライブユニットに頼らなければならず、ペナルティを受ける事になる」
「それでも、メルセデスが伝統的に強さを誇ってきたハンガリーのレース前の時点ではかなり楽観的だった。バランスに問題を抱えていたものの、ハミルトンが前方よりもバックミラーを気にする”ゲーム”を演じた予選でメルセデスと同等の成績を残す事ができていたからね」
「だが、ウェットで始まったレースではボッタスが突っ込んできて我々の2台のマシンを破壊した。雨を得意とするマックスは自信を持っていたものの、修復できたのは右サイドに限られ、マシンバランスが完全に崩れてしまった。またセルジオの方は2基目のエンジンが駄目になってしまい、4基目の投入でペナルティが科せられる見通しだ」
「メルセデスのドライバーが起こしたこの2つの事故によって、ドライバー及びコンストラクターの各チャンピオンシップのリードは失われてしまった」
またヘルムート・マルコはMotorsport-Magazinとのインタビューの中で「2回のクラッシュによる金銭的な影響は300万(ユーロ?)近くに達していて、もはやそう簡単には片付けられない額になっている。これはチャンピオンシップを左右しかねない」とも述べ、フラストレーションを撒き散らしている。
投入時期の判断を保留するレッドブル
スパ・フランコルシャンでの次戦ベルギーGPを含めて残りは12戦。開封済みの3基のみでこれを乗り切る事は不可能に近い。4基目の投入が避けられないとするならば、フェルスタッペンとペレスはどのタイミングでペナルティを消化するのだろうか?
ヘルムート・マルコは、他車が原因のクラッシュにより発生した損害についての扱いについて統括団体の国際自動車連盟(FIA)が何らかの判断を下すまで保留とする考えを示している。
「少し様子をみたいと思っている。マックスのエンジンに(今後も使い続けられる)可能性があるかどうかを最終確認したいし、それにフェラーリも我々と同じような問題を抱えていてFIAと話し合っているようだしね」
「その上でオーバーテイクに最適なコースレイアウトを見極めていく」
同じくハンガリーでは、シャルル・ルクレールも同様にランス・ストロールのミスによる事故に巻き込まれリタイヤを余儀なくされた。フェラーリはルクレールのパワーユニットがお釈迦になってしまったため、レッドブル・ホンダ勢と同じ様に後半戦のいずれかで4基目を使用せざるを得ない状況だと認めている。
そんな跳馬のマッティア・ビノット代表は、クラッシュの原因が他チームにある場合の損害費用について、事故を引き起こしたチームに金銭的な責任を負わせるべきだと主張しているが、ヘルムート・マルコは「私はそうは思わない」と否定的で、損害額については予算上限から控除する形が望ましいとしている。
降格ペナルティの最適なタイミング
具体的には一体、どのイベント、どのサーキットでグリッド降格を受けるべきなのか?
メルセデスとのパフォーマンスが拮抗している事から、ペナルティを受けてなお勝利を目指すのは現実的ではない。基本的にはペナルティなしに戦ってもメルセデスに勝てる見込みがなく、かつ、巻き返しによって3位表彰台が可能と見込まれる場合が理想的だろう。つまり、ペナルティの有無に限らず同じリザルトが期待できるというのが条件だ。
唯一の例外が次戦ベルギーGPだ。ハンガリーGPの事故の責任を取る形でボッタスが5グリッド降格を受けるという特殊事情があるが、ヘルムート・マルコはスパでの新エンジン投入に否定的だ。
フェルスタッペンの母国という事でオランダGPは考えにくく、追い抜き困難な鈴鹿での日本GPも適切とは言えない。モンツァは波乱が起きやすく、4基目投入の上でスプリント予選を欠場してエンジンマイレージを温存するというトリッキーな手も考えられなくはないが、予選5番手が精一杯だった昨年のイタリアGPを考えるとあり得そうにない。
ホンダ製F1パワーユニットが圧倒的なアドバンテージを誇ってきたメキシコでメルセデスに勝利を与える必要はなく、雨に翻弄されて散々な結果に終わったとは言え、ドライコンディションのプラクティスを3連取したトルコでの交換も避けたい。
また残りのレース数やパンデミックによるカレンダー再編の可能性を考えると第20戦ブラジルGP以外も除外される。
そうなると必然的に第15戦ロシアGPと第18戦アメリカGPの2つに絞られてくる。中でもメルセデスの牙城たるソチ・オートドロームは最有力候補と言える。
フェルスタッペンは2019年のソチでエンジン交換ペナルティを受けて9番グリッドから4位フィニッシュを果たし、チームメイトのアレックス・アルボンはピットレーンからの5位入賞を飾った。
例えばフリー走行でのメルセデスの競争力を見て判断するという手もあるが、シルバーアローはプラクティスで手の内を見せないため、フリー走行の結果に頼って判断する事は懸命ではない。
ピットスタートによってオープニングラップの混乱を回避して大幅なポジションアップが期待できるという点でウェットレースを利用するという手もあるが、雨の中での巻き返しはハイリスク・ハイリターンであり「ペナルティの有無に限らず同じリザルトが期待できる」という条件を完全に満たすとは言い切れない。