速読:ザウバー2024年型「C44」は先代比較で何が変わった? ”完全な新車”でレッドブルとマクラーレンに追随
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チーム名(ステイクF1チーム)とこれに伴うカラーリング(黒×蛍光緑)だけでなくザウバーは、メカニカル及び空力の両面でパッケージを大胆に変更した。
テクニカル・ディレクターを務めるジェームス・キー曰く、リア側には先代からの「幾つかのキャリーオーバーがある」ものの、2024年型のC44は「事実上、完全な新車」である。
公開されたのはレンダリングイメージのみであり、またプレシーズンテスト並びに開幕戦に向けてアップデートされていく事から、ここではディティールには踏み込まず、2023年型「C43」と比較しながら駆け足で新車を解説していきたい。
キー好みのフロント・プルロッド
ヒンウィルの技術チームは2024年に向けてフロント・サスペンションをプッシュロッド式からプルロッド式に変更した。
これはマクラーレンから移籍してきたジェームス・キーが好むレイアウトであると同時に、昨年のダブルチャンピオンマシン、レッドブルRB19が採用していた構成でもある。
2022年のグランドエフェクトカー導入以降、一貫して前にプッシュロッド、後にプルロッドを組み合わせているのはレッドブルとマクラーレンのみで、ジェームス・キーを迎え入れたザウバーもこれに追従した格好だ。
サスペンション形式の選択は重心やメカニカル的な理由のみならず、空力的な理由により決定される。
フロント・ サスペンションはフロント・ウイングからの空気の流れの中に直接さらされるため、後方へと向かう気流に大きな影響を与える。グランドエフェクトカーにおいてはサスペンションの位置と形状を調整することで、アンダーフロアへと向かう気流を最適化する事が求められる。
シャシー側の取り付け位置が低いプルロッドは一般的に、前足上部の空間をクリアに保つことでドラッグ低減が期待できるほか、スプリングとダンパーが車体下部に配置されるため重心が低下し、また、調整ポイントへのアクセスが容易となる反面、メカニカルグリップを引き出すのが難しいともされる。
レッドブルは前後サスペンションのアッパーウィッシュボーン(上部のV字型アーム)に関して、フロント側はフロントアームをリアアームよりも高い位置で、リア側はリアアームをフロントアームよりも高い位置で、それぞれシャシー側に取り付けている。
これはアンチダイブ(前傾防止)とアンチスクワット(後傾防止)により、マシンの荷重変化を抑えてエアロダイナミクスを安定させることを目的の一つにしているものと見られている。
グランドエフェクトカーにおいてはダウンフォースの大部分を発生させるアンダーフロアと地面との距離を一貫して保つ事が重要となる。減速時にフロントが過度に沈み込んだり、加速時にリアが下がると地面との位置関係が変化し、空力に大きな影響が及ぶ。
レッドブル型のインレットとサイドポッド
サイドポッドの最前部に位置する冷却系への吸気口=サイドポッド・インレットは、レッドブルが採用する”下唇”が長いアヒル口形状へと変更された。
以前のフェラーリ型と比較すると一目瞭然で、従来モデルよりも幅が狭まった事で空気抵抗の低減が期待され、これにより最高速度も向上するものと思われる。
インレットの形状変更と合わせてサイドポッドのフォルムもレッドブル型に刷新されているが、アンダーカットはより深く入り込んでいるように見える。
これにより以前と比べてフロア最前部に設けられるアンダーフロアへの入り口、ベンチュリートンネルの設計自由度が増すものと思われるが、トンネルや、その抜け口であるディフューザーの細部は伏せられている。
ロールフープとインダクションポッド
独自路線のロールフープ、インダクションポッドはポピュラーなA型フレームに変更された。エンジンに空気を供給する部位、インダクションポッド(エアインテーク)の再設計と合わせてポッド下部からリアへと繋がるボディーワークは広大かつ平坦なフォルムに改められた。
この部位を流れる気流を効果的に使うと、ビームウィング上部に位置する排気口から後方に吐き出される空気の速度を加速させる事が可能になる。
吐き出される空気は、サイドポッド・インレットから取り入れられ、エンジンの冷却に使用された後の大量の熱を帯びた排気である。
レッドブルが採用するこの手法はマシンの冷却性能を高め、サイドポッド上の冷却用のフィンを減らす事が可能となる。フィンは冷却的には必要でも空力的には不要であり、ドラッグの低減に繋がる。