メルセデス:2018年F1マシン「W09」解説 / 比較画像とエンジンスペック・主要諸元
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メルセデスAMG・ペトロナス・モータースポーツ(Mercedes-AMG Petronas Motorsport)の2018年F1マシン「F1 W09 EQ Power+」の主要諸元と、搭載される同社最新版パワーユニット「M09 EQ Power+」のエンジンスペックを紹介。昨季の「W08」との比較画像を交えて解説する。
「W09」は2018シーズンのF1世界選手権でドライバーズ及びコンストラクターズの両部門を制覇。メルセデスAMGに5年連続、5度目のチャンピオンシップ獲得をもたらした。
概要
© Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
「W09」は2018年2月22日、イギリスのシルバーストン・サーキットで正式発表された。その様子は全世界に向けてインターネットライブ配信された。発表の直前、バルテリ・ボッタスがステアリングを握る形でシェイクダウンが行われた。
「W09」は、F1界の著名デザイナーであるジェームズ・アリソンがメルセデスで手がけた最初のマシンとなる。アリソンは昨年フェラーリから移籍、テクニカル・ディレクターとして設計部門を率いている。開発には36万5000人日、つまり一人の従業員が作業に従事したと仮定すると、36万日という膨大な歳月がかかった。
MCL33 写真と解説
W09にはルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスの2人のドライバーのフィードバックが取り入れられた。昨年の「W08」は、低速サーキットでのパフォーマンスに難があり、セットアップに過敏に反応する不要な繊細さを備えていた。発表会の中でハミルトンは「全てが新しい」と述べ、大きく進化している事を強調した。
コンセプトを継続、「W08」の正常進化版
ハミルトンの主張とは裏腹に、マシンの外観を見る限りはエアロパッケージに大きな変更は見られず、全20戦中15レースでポールポジションを獲得し圧倒的な速さを見せつけたW08の正常進化版と言える。
だが、心臓部であるエンジンは別の話。エンジン部門を率いるアンディ・コーウェルは、「M09 EQ Power+」がゼロから設計された新しいエンジンである事と言い切った。改良版やアップデート版などではなく、”新設計”のものだと言う。
4年連続でダブルタイトルを獲得したエンジンを捨てる必要がどこにあるのか?コーウェルはその理由として、摩擦低減と信頼性確保の2点において画期的なアイデアを手に入れたからだと説明。レイアウトや機能などの話ではなく、製造方法や素材に対しての新たな知見を手に入れたといったところだろう。
昨年マシンとの比較画像
流石絶対王者と言うべきか。チームからメディア向けに提供されたスタジオフォトは、W09とW08とでは”意図的に”撮影画角が異なっている。それも極めて微妙なレベルでだ。画角が妨げとなって比較しづらい様に工夫されているため、マシンの左右中央で両者を並べると水平角にばらつきが生じてしまう。この点留意の上、見比べて頂きたい。
W09の方が若干高い視点からの見下げとなっているため、バージボードやサイドポッドの上面の面積が異なるように見えてしまう。だがこの点を脳内補正して見ると、ザウバーC37の激変っぷりなどに比べると”全く”変化がないようにすら思えてくる程大きな変化は見当たらない。
別の画角からもう一枚。こちらの方が見やすいか。サイドポッド・インレットの上下高が狭くなったのと、その下部のアンダーカット部分のエグリが減った所、リアサスペンション周り、コックピットからリアにかけてのボディーワークに変化が確認できる。サイドポッドの幅は他のチームと比べるとかなり広いように見受けられる。
メルセデスは例年、プレシーズンテスト以降に姿形を変えてくるため、新車発表時のマシンは仮の姿として捉えておいた方が良いかもしれない。
技術諸元・スペック
エンジン
同じパワーユニットの供給を受けるウィリアムズの技術責任者パディ・ロウは、「M09」のパッケージングが”革新的”に変化したと述べている。馬力の公表は行われていないがルノーが950馬力以上を明言するところを考えると、限りなく1000馬力に近い出力を誇るものと思われる。
型式 | メルセデスAMG F1 M09 EQ Power+ |
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排気量 | 1600cc、97.6立方インチ |
シリンダー | V型6気筒 / 90度 |
バルブ数 | 24、DOHC |
ボア径 | 80mm |
ストローク | 53mm |
クランク高 | 90mm |
過給 | シングルターボ |
ICE 最高回転数 | 15,000rpm(レギュレーション規定) |
ターボ 最高回転数 | 125,000rpm |
潤滑油 | ペトロナス製チュテラ |
最大燃料流量 | 100 kg/h |
燃料 | ペトロナス製プリマックス |
燃料タンク | ATL製ケブラー強化ゴムタンク |
燃料タンク容量 | 105 kg |
燃料噴射 | 高圧直噴、最大500bar/シリンダー |
重量 | 145kg(既定最低重量、ERS含む) |
馬力 | 未公表 |
ERS エネルギー回生システム
バッテリー(ES) | リチウムイオンバッテリー(20kg) |
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バッテリー(ES)最大貯蔵量 | 4 MJ/周 |
MGU-K 最大出力 | 120 kW(161馬力) |
MGU-K 最大回転数 | 50,000 rpm |
MGU-K 最大回生量 | 2 MJ/周 |
MGU-K 最大放出生量 | 4 MJ/周(最高出力で33.3秒相当) |
MGU-H 最大出力 | 無制限 |
MGU-H 最大回転数 | 125,000 rpm |
MGU-H 最大回生量 | 無制限 |
MGU-H 最大放出量 | 無制限 |
シャシー
2016年まで使用していた「F1 W0X Hybrid」を昨年より改め、「F1 W0X EQ Power+」呼称となった第二弾のシャシー。”EQ”は”Electric Intelligence”の略であり、今後同社のプラグインハイブリッド市販車には「EQ Power」の名がつけられる。F1と市販車とのブランディングを考慮したネーミングというわけだ。
型式 | メルセデスAMG F1 W09 EQ Power+ |
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構造 | C/Cコンポジット材 |
コックピット | C/Cコンポジット材HANSシステム6点式シートベルト着脱シート |
フロントサスペンション | カーボンファイバー製プッシュロッド式ダブルウィッシュボーン トーションスプリング&ロッカー |
リアサスペンション | カーボンファイバー製プルロッド式ダブルウィッシュボーン トーションスプリング&ロッカー |
トランスミッション | メルセデス製リバース付8速カーボン製ギアボックス 油圧式セミオートマチック・シーケンシャル カーボンファイバー製プレート・クラッチ |
タイヤ | ピレリ P Zero |
ホイール | Ozレーシング製鍛造マグネシウム |
ブレーキ | カーボンインダストリー製カーボンファイバー材ディスクブレーキ&パッド ブレンボ製ブレーキキャリパー& リア:ブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW) |
電気系 | FIA認定 MES(マクラーレン・エレクトロニック・システムズ)製標準ECU |
冷却系 | 未公表 |
ステアリング | ラック・アンド・ピニオン式パワーアシスト |
無線 | 未公表 |
塗装 | 未公表 |
計器類 | MES製 |
全長 | 5,000mm以上 |
全高 | 2,000mm |
全高 | 950mm |
フロントトレッド | 非公表 |
リアトレッド | 非公表 |
重量 | 733 kg(ドライバー含) |
前後重量配分 | 非公表 |