物議を醸す”F1ドライバー検閲規定”の危険性、釈明するFIA

LGBTQ+コミュニティに連帯を示すべく「SAME LOVE」のメッセージが描かれたレインボーカラーのストライプTシャツを着用したセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)、2021年8月1日F1ハンガリーGPにてcopyright astonmartinf1@Instagram

書面による事前承認なしに「中立性の一般原則に著しく反する政治的、宗教的、および個人的な声明や意見」を禁止する旨の新たな条項が追加された「2023年国際スポーツ競技規則(ISC)」について国際自動車連盟(FIA)が釈明した。

ISCはF1を含むFIA統括シリーズに参戦する全てのドライバー、チームが従うべきガイドラインのような位置づけの規定だ。近年ではセバスチャン・ベッテルやルイス・ハミルトンが人種差別やLGBTQ、気候変動といった様々な社会問題に焦点を当てるために声を上げる場面が目立っていた。

Courtesy Of Daimler AG

警官によるブレオナ・テイラーさん射殺事件に抗議するTシャツを着用するメルセデスのルイス・ハミルトン、2020年F1トスカーナGPにて

「多様で包摂的な文化」を推進していくとするFIAがISCに新たに書き加えたのは、どういうわけかドライバーの表現の自由を害するものだった。これは前進か。それとも後退か。

「あらゆる人と国が達成しなければならない共通の基準」とされる、いわゆる「世界人権宣言」が国際連合総会で採択されたのは74年前にまで遡る。これには「宗教又は信念を表明する自由」に加えて「意見及び表現の自由に対する権利」が定められている。

何処までが「中立的」なのか。何を以て「政治的」とみなすのか。「個人的」とは何を指すのか。

曖昧であるがゆえに、FIAの気分次第でドライバーのあらゆる行動・発言が制裁の対象となりうる危険性を孕むこの新たな規定は早速、物議を醸しており、FIAは次の声明を通して改定の背景にある考えを説明した。

「ISCは、国際オリンピック委員会(IOC)の倫理規範にうたわれているオリンピック運動の普遍的かつ基本的な倫理原則としてのスポーツの政治的中立性、そして第1条2項に定められた普遍性の原則に沿う形で更新された」

「更にFIA規約第1条2項にて規定されているように、FIAは人権及び人間の尊厳の保護を推進し、その活動の過程において人種、肌の色、性別、性的指向、民族的又は社会的出身、言語、宗教、哲学的又は政治的意見、家庭環境又は障害を理由とする差別を表明すること及びこの点に関して如何なる行動を採ることを慎むものとする」

「FIAはジェンダーや人種に関してよりバランスのとれた表現を達成し、より多様で包摂的な文化を創造するために少数派グループに焦点を当てていく」

仮に女性ドライバーやLGBTQ+を公言するドライバーが自らの人権・生存が脅かされると感じるような国でレースをした際に自らの懸念を表明した場合、FIAは制裁を科すつもりなのだろうか?

中立性を理由にロシアGPの現地プロモーターが開催契約の破棄は無効だと訴えた場合、FIAはそれを認めるつもりなのだろうか?

Courtesy Of Alfa Romeo Racing

ザントフォールト・サーキットに揺らめく国際自動車連盟(FIA)の旗、2022年9月1日F1オランダGP

このほど閉幕した2022年カタール・ワールドカップでは、LGBTQ+コミュニティへの連帯を示すために欧州を中心に幾つかの各国代表キャプテンが「OneLove」とのメッセージが描かれた腕章を着用する計画を立てていたが、FIFAが制裁をチラつかせた事で断念。批判を浴びたばかりだった。

近年のF1カレンダーにはカタールやサウジアラビアといった基本的人権が問題視されている国が次々と追加されており、サウジの国営石油会社「サウジ・アラムコ」との間の新たなグローバルスポンサーシップ契約が象徴するように、これらの国々からは莫大な資金が流れ込んでいる。

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