脅威ブガッティ・シロン、最高速490.484km/hの世界記録を樹立…レコード更新の舞台裏

時速300マイル突破プロジェクトのために、エーラ・レッシェンを走行するブガッティ・シロンcopyright BUGATTI AUTOMOBILES S.A.S.

世界最速のハイパーカーとして知られるブガッティ・シロンのプロトタイプモデルがこの度、量産モデル車として史上初めて時速300マイル(時速482.80km/h)の壁を突破した。

ブガッティ・シロンは、ブガッティ・オトモビルが2016年より製造している2シーターで、1500馬力、1600Nmを発揮する8リッターW16気筒エンジンを搭載し、これに7速セミAT(DSG)を組み合わせる。

ブガッティは2019年8月2日、空力効率を改善したプロトタイプモデルのシロンに強化型ミシュランタイヤを履かせ、ドイツ北部に位置するフォルクスワーゲンのプライベートコース、エーラ・レッシェンで490.484km/h(304.773mph)の最高速度を記録。認証機関SGS-TUV Saarがこれを正式に認定した。

ルマンウィナーの記録請負人ウォレスがドライブ

ステアリングを握ったのは、ル・マン24時間レースのウィナーにして、ブガッティのテストドライバーであるアンディ・ウォレス。彼は1998年に、同じくエーラ・レッシェンでMcLaren F1を走らせ、当時の世界記録である時速391km(時速243マイル)を樹立したドライバーだ。

アンディ・ウォレスは、まずは300km/hから50km/h刻みで加速し、リフトした際のマシンバランスとダウンフォースを確認した後、8.8kmのストレートで最高速度を記録するために、北カーブを時速200kmで駆け抜けた。

トップスピードを記録した後、ストレートエンドの南カーブを確実に曲がり切るために、綿密な計算によって算出されたブレーキポイントで確実にブレーキペダルを踏み減速。時速200kmで無事に南カーブを走行した。

「まずはアクセル全開で約70秒間走行したんだ」とアンディ・ウォレス。「ストレートでトップスピードに達するためには、時速200kmでコーナーから脱出することが重要だった。最高レベルの集中力が必要だったよ」

アンディ・ウォレスは、1秒間に136mを走行した。

「とんでもないスピードだった」とアンディ・ウォレスは続ける。「自動車でこんなスピードが可能だなんて信じられないけど、シロンには万全の準備が施されていたし、これほどの高速レンジでも凄く安全だと感じた」

記録樹立のためにミシュランとダラーラが協力

世界新記録を更新するために、ブガッティの開発責任者であるステファン・エルロットの指揮の下、様々な分野のエンジニアからなるチームが結成された。専門家チームは、空力性能の向上に加えて安全性を重視。アンディ・ウォレスは6点式シートベルトによって固定された上に、セーフティーセルによって安全性を更に確保された。

このチームには、イタリアのレーシングカーコンストラクターであるダラーラと、タイヤメーカーのミシュランが参加。万全の体制で挑んだ。

ミシュランのハイスピードタイヤは既にシロンで採用されているが、公道走行が認められている5300G対応のベルトを更に強化したものが開発された。なにしろタイヤは、一分間に4,100回も回転する事になるのだ。このタイヤは、米国において511km/hまでの速度で広範囲にわたるテストベンチ試験を受けた後、厳しい品質管理のもと、細部まで最適化するためにX線検査を受けた。

ブガッティのエンジニアたちは、テストベンチでエンジン性能や、さまざまな操作の際のエンジン及びギアボックス、そしてシャーシの相互作用を確認した。この速度レンジでは、僅かな違いが大きな影響を引き起こす。

時速400km以上の世界

エーラ・レッシェンは海抜50mに位置しており、高地に位置するF1メキシコGPの舞台であるエルマノス・ロドリゲス・サーキット等とは異なり空気密度が高い。そのため空気抵抗は大きく、トップスピードは出にくい。時速400km以上の高速で走行した場合、車はまるで壁にぶつかっているかの如く走行しなければならない。

「気圧、空気密度、そして気温は、高速走行に大きな影響を与える要素だ。高度によっては最大25km/hの差が出てしまう」とステファン・エルロットは説明する。それでもブガッティは、エーラ・レッシェンを決戦の場に選んだ。

「400km/h以上の超高速での世界記録達成には、一定のリスクが伴う。クルマ、天候、トラックと、すべてを正しく行わなければならない。エーラ・レッシェンは最高の安全性を提供してくれるトラックだ。だからこそ我々はこの地を選んだんだ」

高速試験の安全基準がこれほど高いのは、世界でもエーラ・レッシェンだけだ、とブガッティは説明する。21キロメートルにも達する三車線のハイスピードレーンには全てクラッシュバリアが設置され、北と南の端では救助サービスが受けられる。更に、クルマの挙動を乱しかねない石や砂を全て取り除くために、特別な方法によって路面の清掃が行われた。

速度の記録は、イカサマができないように封印されたGPSボックスで記録され、証明書はSGS-TÜVSaarによって発行された。ブガッティは時速300マイルの壁を初めて破ったメーカーとして歴史に名を残した。

ブガッティ・シロンがこのコースで世界記録を樹立したのは今回が初めてではない。2017年には、元F1ドライバーのファン・パブロ・モントーヤを起用して、時速0kmから時速400kmまで加速し、その後停止するというテスト走行によって、41秒96の世界新記録を樹立している。

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