F1スチュワード解任劇の真相、ベン・スレイエムを非難しFIAの内情を暴露するティム・メイヤー

モハメド・ベン・スレイエムFIA会長、2022年1月15日(土)にオーストリア・ザルツブルクのハンガー7にて行われたWRCのローンチイベントにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

15年間に渡って務めてきたF1グランプリレースのスチュワードを解任されたことを受けティム・メイヤーは、国際自動車連盟(FIA)のモハメド・ベン・スレイエム会長を厳しく非難し、組織の内情を暴露した。

解任の真相とテキストメッセージ

2024年のF1アメリカGPでは、レース後のクールダウンラップ中に観客がコースに侵入する事件が発生し、「合理的な措置を講じなかった」との理由で主催者に50万ユーロの罰金が科された。

この文言について主催者は「米国の法律では過失と同義」であり、米国法人にとっては「問題」になるとしてFIAに変更を求め、最終的に修正された。

主催者側の代理人として対応したメイヤーは、文言の変更を求める文書の一部にベン・スレイエムが「気分を害した」ことが解任の理由だと説明した。

メイヤーはまた、「その部分を書いたのは私ではない。私の仕事はそれを提出することだった」と釈明し、ベン・スレイエムが「これほど些細な問題で、そこまで怒るのは不可解だ」と指摘した。

さらに、解雇通告がベン・スレイエムの補佐役からのテキストメッセージで行われたことを非難し、「ボランティアに頼る組織が、長年貢献してきた人を解雇する際にテキストメッセージを使うのは、運営の問題を浮き彫りにするものだ」と批判した。

スチュワードの待遇は公式には明らかにされていないが、ジョージ・ラッセル(メルセデス)は適切に給与を貰っていないとしており、無給、もしくは十分な報酬を受け取っていない可能性が示唆されている。

スチュワードへの干渉

メイヤーが長年に渡って務めてきたスチュワードは、レース中のインシデントの調査やペナルティの決定など、競技運営における重要な役割を担っている。

これらの判断の公平性と一貫性を保つために、スチュワードは外部から独立した存在であることが求められるが、メイヤーによると、ベン・スレイエムは自らの意見を反映させるために、スタッフを通じて「直接的に関与」する場面があったという。

その一例としてメイヤーは、FIA主催の記者会見場で罵り言葉を使ったとしてドライバーにペナルティが科された件を例示した。

シンガポールGPではマックス・フェルスタッペンがこれによって社会貢献活動を命じられ、メキシコGPではシャルル・ルクレールに1万ユーロの罰金が科された。

「ドライバーが罵り言葉を発した場合に罰則を科すべきだというのが彼(ベン・スレイエム)の見解であり、これまでの動きはそれを反映している」とメイヤーは語った。

この指摘が持つ意味は大きい。

2023年のサウジアラビアGPでベン・スレイエムは、フェルナンド・アロンソに科されたペナルティを覆すために介入した疑いがあるとして内部告発されたが、FIAの倫理委員会は調査を経て、疑惑を「立証する証拠はない」との「全会一致」の判断を下した。

この件に関してベン・スライエムは、FIAの中東・北アフリカ地域のスポーツ副会長であり、そのレースの公式な役割でサウジアラビアにいたシェイク・アブドゥラ・ビン・ハマド・ビン・ハマド・イサ・アル・ハリファに連絡を取り、アロンソのペナルティを取り消すべきだと語ったとされる。

相次ぐ離職と人材不足の懸念

ベン・スレイエム体制下のFIAは、上級職員の離職が相次いでおり、カタールGPに先立っては、メイヤーが「次世代のレースディレクターの最高峰」と評するジャンネット・タンが、一度もその職務にあたることなく、F2のレースディレクターを解任され組織を去った。

メイヤーとタンの解任により、元F1レースディレクターのニールス・ヴィティヒと、FIAのコンプライアンス責任者を務めていたパオロ・バサーリを含め、ここ2週間足らずの間に退職した上級職員の数は4名に達した。

レースディレクターの職責についてメイヤーは、「胃潰瘍」になるほど過酷なものだと指摘し、相次ぐ離職者の存在に懸念を表明した。

「事情は分からないが、彼女(タン)のような人物を確保するために最大限の努力をするのが普通だと思う」とメイヤーは語った。

「FIAの最高水準認定であるプラチナレベルのレースディレクターは多くない。私もその一人だ。この仕事を正しくこなすには、考慮すべき多くのことに日々気を配り、胃潰瘍ができるほどの負担を伴う」

「彼ら(FIA)は自らに不利益をもたらしている。文字通り、この仕事をする人材が不足している」

過去18か月間で多数の職員がFIAを去った背景には、ベン・スレイエムとの対立があると見られている。

ベン・スレイエムの会長就任から1年を経た2022年12月には、FIAのモータースポーツ担当暫定事務局長を務めていたシャイラ・アン・ラオが、ベン・スレイエムによる「容認できない行為」を記した書簡を残し、就任発表から半年足らずで退任した。これをめぐり、FIA倫理委員会の有力メンバーも調査の是非を巡って辞任した。

昨年12月には、FIA女性委員会のデボラ・メイヤー委員長が辞任し、年明け早々にはスポーティングディレクターのスティーブ・ニールセン及びテクニカルディレクターのティム・ゴスの両名が、就任1年を待たずに離職した。

また5月には、FIAの最高経営責任者(CEO)を務めていたナタリー・ロビンが、就任から僅か18か月で辞任し、10月にはコミュニケーション担当ディレクターのルーク・スキッパーとモビリティ担当事務総長のヤコブ・バングスガードの両名がFIAを去った。

F1アメリカGP特集

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