エルマノス・ロドリゲス・サーキットのスタジアムセクション、2019年F1メキシコGP決勝レース中
Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

エルマノス・ロドリゲス・サーキット

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サーキットデータ
サーキット名エルマノス・ロドリゲス・サーキット
所在国メキシコ
住所Granjas México, 08400 Mexico City, CDMX, Mexico
設立年1962年
設計ヘルマン・ティルケ(2015年再改修)
全長 / コーナー数4,304m / 16
最大高低差3m
周回数71
ピット長 / 損失時間379m / 19.2秒
ターン1までの距離*1811m
平均速度189km/h
最高速度364.9km/h
エンジン負荷と全開率*2 57%
ブレーキ負荷と使用率 21%
燃料消費レベルと量 1.48kg/周
フューエル・エフェクト 0.31秒/10kg
タイヤ負荷レベル
ダウンフォースレベル
グリップレベル
変速回数36回/周
SC導入率40%
ウェット確率20%
WEBサイト ahr.notiauto.com

*1 ポールポジションから最初の制動地点までの距離
*2 全開率は距離ではなくタイムベースで算出

アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲス・サーキット(スペイン語: Autódromo Hermanos Rodríguez)は、メキシコの首都メキシコシティにあるF1メキシコGPが開催されるレースサーキット。2015年に、23年ぶりにF1グランプリレースが開催された。

グランプリ復活に際してはヘルマン・ティルケがデザインを担当。現在は使われていないフォロ・ソル野球場のグランドスタンド部分にコースを敷設し、非常に独特かつエキサイティングなサーキットを作り上げた。

ホンダがF1初勝利をあげた地(1965年のF1最終戦メキシコGP)としても知られている。小ネタであるが、ホンダのF1初勝利はグッドイヤーのF1初勝利でもあった。

復帰から5シーズン連続でFIAの年間最優秀プロモーター賞(Best Promoter of the Year)を独占。観客動員数はカレンダーの中でもトップクラスで、2019年シーズンはイギリスGPに次ぐ35万人もの観客を動員。2015年~2019年で160万人以上のファンが足を運ぶなど、地元経済を大きく潤している。

手前からターン6、ターン5、ターン4、エルマノス・ロドリゲス・サーキットにてCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

手前からターン6、ターン5、ターン4、エルマノス・ロドリゲス・サーキットにて

エルマノス・ロドリゲス・サーキットのスタジアムセクションを走るメルセデスAMGのルイス・ハミルトン、F1メキシコGP初日 2018年10月26日copyright Mercedes

エルマノス・ロドリゲス・サーキットのスタジアムセクションを走るメルセデスAMGのルイス・ハミルトン、F1メキシコGP初日 2018年10月26日

コースレイアウト

全長4,304mと、カレンダーの中ではモナコに次いで2番目に短いが、ポールポジションから最初のブレーキングポイント(ターン1)までの距離は811mと、ロシアGPが行われるソチ・オートドロームに続いてF1で2番目に長い。ただし、スリップストリームの効果が低いため、予選順位のアドバンテージはさほど大きくはない。

エルマノス・ロドリゲス・サーキットのコースレイアウト図、2019年F1メキシコGP版

長い直線2本で構成されるセクター1、中速コーナーが連続するセクター2、低速コーナーが中心となるセクター3と、各セクター毎に特色が分かれている。

2015年の改修によって、重大事故が多発していた伝説的コーナー「ペラルターダ」は消滅。新たな最終コーナーは「ナイジェル・マンセル・ターン」と名づけられた。1990年のレース中にマンセルは、ペラルターダでゲルハルト・ベルガーに仕掛け、アウト側から決死のオーバーテイクを決めた。

高地ゆえにダウンフォース量が制限されてしまうため、オーバーラン等のミスに注意が必要となる。チームは市街地コースと同レベルの高いダウンフォースパッケージを用意する。

最高速を記録するのはホームストレートエンドの1コーナー。時速360km以上に達する。モンツァに匹敵するスピードだが、減速に必要なダウンフォースが少ないためモンツァとは比較にならない位ブレーキングが難しい。

路面はかなりバンピーであり、マシン底部が路面と擦れて生じる火花が多く見られる。復活初年度はホコリが多くかなりダスティーであったが、15年に再舗装されたためグリップは向上。摩耗とデグラデーションはある程度改善された。ピットレーンが650mと長く、1回のストップでのタイムロスは約18秒程。タイヤ次第だが、1ストップ作戦が主流となる。

特徴

クルマに大きな影響を及ぼす2285mの標高

標高約2285mの高地に位置するエルマノス・ロドリゲスは、海抜0m地点と比較して22%も空気が薄い(約780hPa)。これはF1カレンダーの中では抜きん出た高さで、実際、2番目に標高が高い海抜800mのインテルラゴスより1,500m近く高い場所に位置している。

空気が薄い=空気抵抗(ドラッグ)が少ない、という通常とは異なるコンディションは、エンジン性能や空力特性はもとよりマシン全体に大きな影響を及ぼし、その性能や操作性を変えてしまう。

低酸素は人間にとっても負担がかかるため、ドライバーは体を慣らすために通常よりも早めに現地入りする。

標高が高いにも関わらずF1では最も平坦なコースのひとつで、最も低い場所から最も高い場所までの標高差は2.8mしかない。

空力面への影響

空気抵抗が減少するためストレートでの最高速度が飛躍的に上がる。1.314kmのホームストレートでは時速360km/hを超える速度に達する。これは超高速サーキットで知られる伊モンツァを凌ぐスピードであり、2015年のグランプリでは366km/hものスピードトラップが観測された。

チームは最大レベルのダウンフォース・パッケージを投入するが、空気が薄いために実際に使えるダウンフォースは超高速のモンツァよりも10%近く低い。モナコGPと同じ大きさのウイングを装着してなお、最高速度はモンツァを上回ってしまうのだから驚きだ。

約22%のダウンフォースが減少することでコーナリング時のグリップは低下し、コーナーの通過速度は下がる。ダウンフォースが得られないがためにドライブするのは本当に困難だ。

冷却面での影響

マシン内部やブレーキダクト内に流入する空気量が減少するため、冷却面で大きな負担を強いる。エルマノス・ロドリゲスの場合、1周走行するのにおよそ80秒を要するが、そのうちブレーキを使用する時間は約22秒、1周あたり27%程はブレーキを使用している。ドラッグが少ないと通常よりも長い時間ブレーキを踏まねばならず、ブレーキへの負荷は深刻だ。

ラジエーターのサイズは変更できないため、チームはブレーキダクトやサイドポッド前の空気取り入れ口の面積を2、3割拡大するが、それは冷却能力を向上させる反面、クルマのドラッグを増大させてしまうためバランスを取る事が重要だ。

冷却のためにブレーキディスクには1000を超える穴が開けられているもの、オーバーヒートの心配があってはドライバーは全力で攻めることができない。メキシコではブレーキやエンジンにトラブルが多い。オーバーヒートしたブレーキは摩耗が進み、グレージング(表面が焼けてテカテカになり摩擦力が低下すること)が発生したりする。

パワーユニットへの影響

空気が薄く出力が低下するため、これを補うためにタービンやコンプレッサーに大きな負荷がかかる。よってターボチャージャーやMGU-Hの信頼性と効率性が問われるわけだが、2017年のグランプリでは、ルノーエンジン勢のMGU-Hに多くのトラブルが発生した。

また、排気ガスの量が減ってしまうためMGU-Hで回生できるエネルギー量も減少する。

パワーユニットの性能は低下するものの、現代F1はハイブリットシステムを要していることもあり自然吸気エンジンに比べればその影響は小さい。自然吸気エンジンの場合は15%ほど出力が低下する。

エルマノス・ロドリゲス・サーキットの上空からの写真creativeCommonsA30_Tsitika

野球場を改修したスタジアムセクション

このサーキットの一番の特徴は、野球場を改修して作り上げたコース区間、通称スタジアムセクションであることに異論はあるまい。周囲360度が観客席に囲まれた独特の空間は圧巻。4万人の熱狂的なファンがひしめき合う。

©@WilliamsRacing
©@WilliamsRacing

スタジアムセクションに設置された表彰台でのセレモニーは、ティルケ改修後初開催となった2015年勝者、ニコ・ロズベルグをして「今までの人生で最高の表彰台だった」と言わしめたほどの圧巻ぶり。小林可夢偉が鈴鹿で3位表彰台を飾った2012年、我々は現地でサーキット中が震え上がるような歓声を目の当たりにしたが、15年のメキシコGPでのそれは、これに勝るとも劣らない、否、これを凌駕するほどの熱狂と興奮に包まれた。

©@WilliamsRacing
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何しろメキシコのファンは熱狂的だ。特に、地元出身のセルジオ・ペレスへの声援は鳥肌モノ。2018年のグランプリでのドライバーズパレードで、ペレスの後方を走行していたピエール・ガスリーは「あれは狂気だった」と、その凄まじさを表現した。

DRSなしでは辛いオーバーテイク

1kmを超えるロングストレートがあるとは言え、DRSなしでは抜きにくい。2018年のレースでは合計39回の追い抜きが記録されているが、その内25回はDRSを使用したオーバーテイクだった。

DRSゾーンは全部で3箇所。2019年にターン11の先に新たなゾーンが追加された。

オーバーテイク リタイヤ
通常 DRS 接触 機械的問題
2019年 6回 33回 0台 2台
2018年 14回 25回 1台 3台
2017年 4回 19回 0台 5台
2016年 16回 10回 1台 0台
2015年 9回 12回 2台 2台

コースレコード

タイム ドライバー チーム
ラップレコード 1:18.741 バルテリ・ボッタス メルセデス 2018年
コースレコード 1:14.759 ダニエル・リカルド レッドブル 2018年

F1メキシコGP歴代ウィナーとポールシッター

開催年 ドライバー チーム タイム
2019 優勝 ルイス・ハミルトン メルセデス 1:36:48.904
ポールポジション シャルル・ルクレール フェラーリ 1:15.024
2018 優勝 マックス・フェルスタッペン レッドブル・タグホイヤー 1:38:28.851
ポールポジション ダニエル・リカルド レッドブル・タグホイヤー 1:14.759
2017 優勝 マックス・フェルスタッペン レッドブル・タグホイヤー 1:36:26.552
ポールポジション セバスチャン・ベッテル フェラーリ 1:16.488
2016 優勝 ルイス・ハミルトン メルセデス 1:40:31.402
ポールポジション ルイス・ハミルトン メルセデス 1:18.704
2015 優勝 ニコ・ロズベルグ メルセデス 1:42:35.038
ポールポジション ニコ・ロズベルグ メルセデス 1:19.480
1992 優勝 ナイジェル・マンセル ウイリアムズ・ルノー 1:16.346
ポールポジション フェリペ・マッサ フェラーリ 1:26.907
1991 優勝 リカルド・パトレーゼ ウイリアムズ・ルノー 1:29:52.205
ポールポジション リカルド・パトレーゼ ウイリアムズ・ルノー 1:16.696
1990 優勝 アラン・プロスト フェラーリ 1:32:35.783
ポールポジション ゲルハルト・ベルガー マクラーレン・ホンダ 1:17.227
1989 優勝 アイルトン・セナ マクラーレン・ホンダ 1:35:21.431
ポールポジション アイルトン・セナ マクラーレン・ホンダ 1:17.876
1988 優勝 アラン・プロスト マクラーレン・ホンダ 1:30:15.737
ポールポジション アイルトン・セナ マクラーレン・ホンダ 1:17.468
1987 優勝 ナイジェル・マンセル ウイリアムズ・ホンダ 1:26:24.207
ポールポジション ナイジェル・マンセル ウイリアムズ・ホンダ 1:18.383
1986 優勝 ゲルハルト・ベルガー ベネトンBMW 1:33:18.700
ポールポジション アイルトン・セナ ロータス・ルノー 1:16.990
1970 優勝 ジャッキー・イクス フェラーリ 1:53:28.360
ポールポジション クレイ・レガッツォーニ フェラーリ 1:41.860
1969 優勝 デニス・ハルム マクラーレン・フォード 1:54:08.800
ポールポジション ジャック・ブラバム ブラバム・クライマックス 1:42.900
1968 優勝 グラハム・ヒル ロータス・フォード 1:56:43.950
ポールポジション ジョー・シフェール ロータス・フォード 1:45.220
1967 優勝 ジム・クラーク ロータス・フォード 1:59:28.700
ポールポジション ジム・クラーク ロータス・フォード 1:47.560
1966 優勝 ジョン・サーティース クーパー・マセラティ 2:06:35.340
ポールポジション ジョン・サーティース クーパー・マセラティ 1:53.180
1965 優勝 リッチー・ギンサー ホンダ 2:08:32.100
ポールポジション ジム・クラーク ロータス・クライマックス 1:56.170
1964 優勝 ダン・ガーニー ブラバム・クライマックス 2:09:50.320
ポールポジション ジム・クラーク ロータス・クライマックス 1:57.240
1963 優勝 ジム・クラーク ロータス・クライマックス 2:09:52.100
ポールポジション ジム・クラーク ロータス・クライマックス 1:58.800

サーキットの場所・アクセス

メキシコシティの市街地に位置するため、アクセスは容易。サーキット周辺には多くの建物が並んでいる。

画像

トロフィーを掲げるルイス・ハミルトンとメルセデスW10、2019年F1メキシコGP表彰台セレモニー
© Pirelli & C. S.p.A. / トロフィーを掲げるルイス・ハミルトンとメルセデスW10、2019年F1メキシコGP表彰台セレモニー

手前からターン6、ターン5、ターン4、エルマノス・ロドリゲス・サーキットにて
© Pirelli & C. S.p.A. / 手前からターン6、ターン5、ターン4

エルマノス・ロドリゲス・サーキットの最終ターン17「マンセルコーナー」
© Pirelli & C. S.p.A. / 最終ターン17「マンセルコーナー」

エルマノス・ロドリゲス・サーキットのスタジアムセクション、2019年F1メキシコGP決勝レース中
© Pirelli & C. S.p.A. / スタジアムセクション

設営中のエルマノス・ロドリゲス・サーキット
© Pirelli & C. S.p.A. / 設営中のエルマノス・ロドリゲス・サーキット

メルセデス勢及びマックス・フェルスタッペンを従えて走るレッドブル・ホンダのアレックス・アルボン、2019年F1F1メキシコGP決勝レースにて
© Getty Images / Red Bull Content Pool

エルマノス・ロドリゲス・サーキットのスタジアムセクションを走行するルノーのニコ・ヒュルケンベルグ、2019年F1メキシコGPにて
© RENAULT SPORT