2018年から2019年へのF1マシンの変化

2019年F1レギュレーション – 知っておくべきルール変更点のまとめ

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2019シーズンはF1レギュレーションが2年ぶりに大きく改正される。史上最大規模と謳われた2017年程ではないものの、統括団体のFIA国際自動車連盟とF1はレース中のオーバーテイク数改善を目指し、昨年12月5日にロシア・サンクトペテルブルクで総会を開催。2019年のスポーティング・レギュレーション及びテクニカル・レギュレーションに関する変更点を承認した。

2019年のルール改正の狙い

近年のF1では追い抜きが難しく、トラック上のアクションが減少しつつある。この問題は過去数年間に渡って指摘され続けてきたものの、解決は容易ではない。その原因は、F1マシンが発生させる「後方乱気流」にある。

マシンの中で最も空気の乱れを発生させるのは前輪だ。F1はオープン・ホイールであるため、この傾向が特に顕著である。ダウンフォースを効率的に得るためには、マシンの表面を流れる一連のエアフローがスムーズである必要があり、フロントタイヤが生み出す乱流を如何に克服するかが大きなポイントとなる。

そこでチームは、前輪で発生した暴れる空気をマシンの側面へと導こうとする。この結果、その車のダウンフォースは増える事になるものの、マシン側面へと追いやられた気流(アウトウォッシュ)は後続車両へと襲いかかる事になる。後続車が前走車に近づけば近づく程この影響は大きくなるため、追い抜きが困難になるというわけだ。2019年のルール改正は、ここに焦点が当てられている。

エンジン関連の主だった変更はないものの、フロントウイングに大なたが振われた事で、マシンの外観は昨年と比べて大きく異なる事になる。ここでは技術及び競技規約に加えられた主な変更点を確認してみよう。F1を130%楽しむためには是非とも知っておきたいものばかりだ。

1、フロントウイングの簡素化

2019年F1のレギュレーションによるフロントウイングの変化

マシン最前方に設置されるフロントウイングの幅と高さが増加。両端の複雑なパーツ類が禁止される事でシンプルなものへと変更される。これによって、ドライバーは前走車両に接近する事が容易となり、追い抜きのチャンスが向上するとみられている。

全幅は1,800mmから2,000mmへとプラス200mmに。全高は25mm増加される。さらに、フロントオーバーハングが1,225mmへと延長され、フロントウイング先端が25mm前方に移動する。

2018年 2019年
ウィング幅 1,800mm 2,000mm
フロントオーバーハング 1,200mm 1,225mm
ウイング高 200mm 225mm

複雑なエンドプレートはフロントタイヤ周辺の気流をタイヤの外側に仕向けるように機能するが、F1とFIAはこれが接近戦を困難にしていると判断。2019年から禁止される事となった。ただしこの状態のままだとダウンフォースが必要以上に失われてしまうため、フロントウイングの全幅を増やすことで対処している。

2018年と2019年のフロントウイング・エンドプレート周りの比較
左: 2019年仕様のフロントウイング・エンドプレート、右:同2018年仕様

フロントウイングは、車体の最も地面に近い箇所を基準として、垂直方向に75mmから300mmの範囲内に収めるよう変更された。2018シーズンは75mm~275mm。事実上、全高がプラス25mm増えたのと同じで、これによって気流の変化に対する安定性が増加。結果として、前走車両に接近した際にフロントのグリップが急激に失われるというリスクが軽減される。

また、フロントウイングの底面に設置して良いアンダーウイング・ストレーキの数が左右2つずつまで、計4つに制限された。これによってボディー下面を流れる空気の量が増加。後続車両の走行を妨害しにくい気流が、マシン後方へと流れる事になる。

バルセロナテストでは、フェラーリやアルファロメオ、トロ・ロッソといった複数のチームが、ノーズからエンドプレートに向かってフラップが低く傾斜する形状のフロントウイングを投入。注目を集めている。

カタロニア・サーキットを走行するアルファロメオ・レーシングC38

2、バージボードの小型化

2019年F1のレギュレーションによるバージボードの変化

前輪のすぐ後方に位置しているエアロパーツ、それがバージボードだ。空気力学的に非常に重要かつ強力。後続車を苦しめる”ダーティーエアー”の元凶となっているという事で、その影響力を削ぐべく小型化される事になった。

全高は150mm小さくなり、フロントウイングから流れてくる空気を上手くキャッチできるように100mm前方へと移動した。これによって、マシン後方に放出される気流を制御し、後方車両に与える悪影響を軽減。接近を容易にすると期待されている。

3、ブレーキダクトの簡素化

ブレーキダクトの”空力パーツ的利用”を抑制するために、ダクト周りの複雑なデザインが制限される。要は、ブレーキダクトは本来の役割である冷却のためだけに使え、という事だ。冒頭で指摘した通り、ダウンフォースを得るためには前輪周りの空気を制御することが有効であるため、チームはダクトを空力学的に利用してきた。

この変更によって、気流の変化に対するマシンの神経質な反応を抑える事ができ、突発的なフロントダウンフォースの”抜け”に対してマシンを安定させる事が出来る。

4、リアウイングの修正

フロントウイングと同様、テール・トゥ・ノーズのバトルを増やすために変更が行われた。ウイング上端は70mm上昇。後続車へと流れる空気の流れを高くする事で、その悪影響を減らす狙いがある。

全幅が100mm、奥行きが100mmプラスされるが、これはダウンフォースの増加を目的としているというよりも、後方に発生するスリップストリーム・エリアを拡大し、その効果を高めるところに狙いがある。自車ではなく他車のアドバンテージを増やすための試みだ。

2019年F1のレギュレーションによるリアウイングの変化

さらに、DRSの開口部が65mmから85mmへと増加。スリット開閉時の差を大きくすることで、DRSの効果が25%程度向上すると見込まれている。また、エンドプレート上部のスリットが禁止され、よりシンプルな外観へと変わる。

5、タイヤ・ラインナップの整理

3種類の2019シーズンF1タイヤコンパウンド
© Pirelli

2018年は晴れ用のドライタイヤが7種類が存在し、識別のために各々に異なる色が塗られていたが、これが3種類に絞り込まれる。FIA国際自動車連盟とFOMフォーミュラ・ワン・マネジメントからの「分かりづらい」との指摘に基づき、2019シーズンは21戦全てのレースで白色:ハード、黄色:ミディアム、赤色:ソフトの3種類に整理される。

硬さ 名称
最も硬い ハード 白色
中間 ミディアム 黄色
最も柔らかい ソフト 赤色

もちろん、様々な種類のサーキットに3種類のコンパウンドのみで対応する事は難しいため、ピレリは5種類のコンパウンドを製造し、コース特性に応じて各グランプリ毎にその中から3つを選択。最も柔らかいものに赤色、中間の硬さのものに黄色、最も硬いコンパウンドに白色を塗り、トラックに持ち込む。

その5種のコンパウンドには「ハード」「ソフト」「ミディアム」とは別の呼称が用いられ、最も硬いものを「C1」、最も柔らかいものを「C5」と呼ぶ事になっている。

また、昨年「シン・ゲージ(thinner gauge)」と呼ばれていた従来よりも0.4mm薄いタイヤが供給される。17年の規約変更によってマシンが大幅に速さを増したことでタイヤの発熱量が上昇。これを抑える狙いがある。

6、最低車両重量の引き上げ

長身で体重の重いドライバーが不利になっている状況を改善するために、規約上の”最低重量”を「マシン」と「ドライバー + ドライバーシート」の2つに分け、ドライバー最低重量は80kg、マシン最低重量は660kgとする考え方が盛り込まれた。

別の言い方をすると、ドライバーを含めた車の最低重量(燃料は含まない)が733kgから740kgへと増加された。この重量に満たない場合、バラスト(重り)の設置によって人為的に重量を増やすことが義務付けられる。

この背景にはコックピット保護デバイス「ヘイロー」の導入がある。ヘイローを設置するためには計15kg程度の重量増加が発生するものの、2018シーズンのレギュレーションで改定された最低重量の引き上げ幅はわずか6kgに留まっていた。

時に1000分の1秒差を競うF1の世界においては、重量がラップタイムに与える影響は甚大。1kgの重量差は0.03〜0.04秒/周に相当するとも言われる。例えば、レッドブル時代のセバスチャン・ベッテル(175cm)の体重は62kg、当時のチームメイトであるマーク・ウェバー(184cm)は74kgであったが、両者の体重差12kgは0.36秒から0.48秒ものタイム差に相当するため、ウェバー不利説が囁かれていた。

7、バイオメトリック・グローブの導入

バイオメトリック・グローブ
© FIA

クラッシュなどの不測の事態の際に、医療スタッフによる治療・救助の効率を高めるため、全てのドライバーに「バイオメトリック・グローブ」の装着が義務付けられた。FIAのセーフティー部門によって開発されたこの手袋には、脈拍数と血中酸素濃度を監視する厚さ3mmのセンサーが生地に縫い込まれている。

グローブは終始ドライバーのバイタルサインをモニタリング。クラッシュの後だけでなく、事故前やクラッシュ瞬間のバイオメトリックデータをトラック上の医療チームに送る。体温と呼吸数をモニタリングするセンサーの導入も検討されていたが、どうやら2019年の採用はないようだ。

センサーはBluetoothによって半径500メートルの範囲に情報を送信でき、小型バッテリーを備えている。この種のバイオメトリック監視デバイスがスポーツに導入されるのはF1が初めてだそうだ。

8、より強靭なヘルメット

安全性の飛躍的な向上を目指し、新しい「FIA 8860-2018規格」に準拠したヘルメットの装着が義務付けられた。極めて高いレベルの耐衝撃性とショック吸収性、そして耐貫通性を備えるこのヘルメットの開発には10年以上の歳月が費やされた。

デブリ衝突による衝撃リスクを低減するため、バイザー開口部は従来よりも10mm低く設定された。また、ヘルメットシェルは破砕と貫通に対する耐性を向上させるために、先進的な複合材料が使用されている。

9、グリッド降格ペナルティの明確化

2018年のルール改定によって、15グリッド降格以上の場合は自動的にグリッド最後尾とする事が定められたが、対象車両が複数発生した場合は、先にコース上に出た者がより上のグリッドを得る決まりになっていた。

これが、2019年からは予選結果順にグリッドに並ぶようルールが変更された。グリッド降格が確定した場合、当該マシンはタイヤとエンジンマイレージの温存のために予選で全開走行を避ける事があったが、このルール変更によってその点も幾らか解消される事になる。

なお、107%ルールに抵触したマシンは、グリッド降格車の有無を問わず、最後尾スタートが義務付けられる。

10、リアウィング・エンドライトの設置

2019年からの導入が決定したリア・エンドプレート・ライトをテストするメルセデスAMG W09、バルセロナインシーズンテストにて
© Mercedes

悪天候の中での車の視認性を高めて安全性を向上させるために、リアウイングの両端のエンドプレートにLEDライトが追加される。インターミディエイトあるいはフルウェットタイヤを履いている時は、常時点灯させなければならない。

11、燃料使用可能量の増加

ドライバーがエンジン全開で走行できる時間を増やすために、決勝レース中の燃料使用量が105kgから110kgへと増加される。これによってリフト・アンド・コースト等による燃料節約走行の必要性が減少し、これまで以上に激しく攻める事が可能になる。

ハイブリッド・ターボが導入されて以降のF1では燃費が重要視される事となったため、ドライバーが限界までプッシュする場面が減少。迫力あるバトルが見られないとして、ファンやパドックから批判を浴びていた。

燃料関係ではもう一つ重要な変更が加えられた。今季は、予選中に補助用オイルタンクを空にする事が義務付けられた。いわゆるオイル燃料問題への対処だ。これによって、エンジンパワーを上げるためにオイルを燃やすことが出来なくなり、引いては「パーティーモード」と呼ばれるパワーユニットの予選専用モードのゲインが少なくなる事が予想される。

12、チェッカーフラッグお役御免

レース終了の合図を告げる市松模様が描かれた「チェッカーフラッグ」がその役割を終え、公式のレース終了合図がライトパネルへと変更される。

とは言え、従来どおりラップリーダーがフィニッシュラインを通過するとチェッカーフラッグが振られる事に変わりはない。だがそれは文化を残そうとする時代への抗いであり、レース的には無意味なものと化す。

昨今のF1では、オフィシャルではない有名人がチェッカーフラッグを振るシーンが増えているが、誤ってレース終了1周前に振られるなどの混乱が度々生じていた。

13、CFDシミュレーションの制限撤廃

2021年以降のレギュレーションに対処する事を目的としてCFD=計算流体力学によるシミュレーションを行う場合は、一切の制限なくこれを実施する事が出来るようになる。

現行レギュレーションでは、CFDは風洞実験と同様に、スケールモデル60%以下、速度50m/秒という制限が課されている。だが、大規模な変更が行われる見通しの2021年以降の次世代レギュレーションに関するものであれば、これらの制限なく自由にシミュレーションを行う事が出来るようになる。

CFDの無制限化によって、F1とFIAの規約策定ワーキンググループは、チームからより正確で的を得たフィードバックを得る事が可能になる。

14、セーフティーカー終了後の追い越し

昨年まではセーフティーカーがピットに戻った後、最初のセーフティーカーライン(一般的にスタート&フィニッシュラインの前方に位置する事が多い)を越えた地点から追い抜きを許可されていたが、これが変更される。

2019年は各ドライバーはリスタート後、スタート&フィニッシュラインを通過するまでオーバーテイクしてはならない、とされた。

15、ピットスタート車のフォーメーションラップ

パルクフェルメ下でマシンに変更を加える等した場合、グリッドではなくピットレーンからのスタートが義務付けられているが、以前のレギュレーションはこれに該当する車両がフォーメーションラップを行う事を禁じていた。そのため、ドライバーは路面状況を全く把握できないままにレースに臨む必要があった。

新しい規約では、ピットレーンスタート車のフォーメーションラップを許可。グリッド上の最後尾のマシンがピット出口を通過した後に、隊列に続いてフォーメーションラップを行う事ができようにルールが変更された。当該車両はフォーメーションラップを終えた後にピットレーンに入りスタートの時を待つ。

その他の規約変更

以上15項目の他には、下記の変更がなされている。

  • グランプリ開幕前の公式車検の廃止
  • 現場入できるスタッフ数制限の緩和
  • レース終了を告げる公式合図をチェッカーライトパネルに変更
  • リアウイング拡大に伴い、後方視認性確保のためにミラー関連の規約を変更
  • 国際映像の改善のために車載カメラ関連の規約を修正
  • 燃料の取り扱いに関する手順の変更
  • 緊急時の脱出効率を改善すべく、ヘイローのフェアリングに関する規約を修正

F1に関する全てのルールを知りたい方は、F1レギュレーション完全網羅版を参照されたい。

2018年から2019年へのF1マシンの変化