2015年のインディ500でクラッシュしたエド・カーペンター
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恐怖…歴史に名を残すインディ500クラッシュ事故動画”5選” – 安全対策と交通事故を考える

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2017年インディ500の予選初日。元F1ドライバーのセバスチャン・ブルデーはターン2の進入でバランスを失い、フロントから壁に激突してマシンを一回転させた。

この事故により、ブルデーは即座に救急車に乗せられ病院に搬送され、骨盤や右の股関節を骨折した事で緊急手術が行われた。事故後にサムアップ(親指を立てて無事を報告)を見せ周囲を安堵させたものの、オーバルコースを時速350km超で走る事の恐ろしさを改めて知らしめた。

インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)が1909年に設立されて以降、インディ500ではこれまでに幾度となく目を覆いたくなるような多くの大事故が発生してきたが、IMSでのクラッシュの歴史は設立後初めて行われた自動車レースから起こっていた。

1909年8月19日から3日間の予定で行われたレースでは5名が死亡する事故が発生。チェッカーフラッグが振られる事なくレースは中止された。

以下インディ500で発生した大規模クラッシュ動画を5つ厳選し取り上げてみる。

4回の大クラッシュが発生した2015年のインディ500

2015年5月13日に行われた第90回インディ500のプラクティス走行で、エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)が宙を舞う大クラッシュを喫した。

翌14日にはジョセフ・ニューガーデンが、そしてエド・カーペンター、ジェームズ・ヒンチクリフがこれに続いて同じような事故に見舞われたが、4人共大きな怪我などがなかったのが不幸中の幸いだった。

この事故を受けて主催者は、予選時のターボブースト圧を下げ、予選専用エアロキットの使用を禁止した。

モータースポーツの世界ではマシンが宙を舞うようなクラッシュを「エアボーン・クラッシュ」と呼んでいるが、これは超高速のオーバルで特に多く発生している。

エリオ・カストロネベス

コーナーの出口でリアを滑らせたカストロネベスはマシンを回転させながらウォールに激突。マシンのリア側は大きくせり上がり、空中を半回転しながらマシン上面からアスファルトに叩きつけられた。

コントロールを失ったと判断するや否や、カストロネベスはステアリングから手を離し体の方に引き寄せ衝撃に備えている。

エド・カーペンター

コーナリング中にリアを滑られたカーペンターはマシン側面から壁に衝突。先ほどのカストロネベス同様にリアが宙高くせり上がり、火花を散らしながらコースを滑走した。

ジェームズ・ヒンチクリフ

コーナリングの立ち上がりでマシンの向きを替えられなかったヒンチクリフ。壁に突っ込んだ瞬間、マシンから炎が上がった。

2010年のマイク・コンウェイ

2010年のインディ500決勝ファイナルラップでのクラッシュ。ドレイヤー&レインボールド・レーシングのマイク・コンウェイが、コーナーアウト側にいたライアン・ハンター=レイに接触。マシンフロントが地面を離れて宙に舞った。

コンウェイは縱橫転しながらフェンスに激突。パーツを散乱させながらハンターレイのマシンに覆いかぶさるように地面に叩きつけられた。コンウェイのマシンはモノコックを残して全損し、両者は即座に病院に搬送された。

コンウェイはWECとフォーミュラEで、ハンターレイは変わらずインディカー・シリーズに参戦し、二人とも今もレースを続けている。

1964年の爆発炎上事故

映像が残されている中で最も悲惨なクラッシュ事故の一つとなったのが1964年のインディ500だ。

14番グリッドからスタートしたアメリカ出身のデイヴ・マクドナルドは、オープニングラップで一気に4つ順位を上げ、ターン4にアプローチ。前方のウォルト・ハンスゲンをオーバーテイクしようとマシンを左に振った瞬間、コントロールを失った。

コースイン側の壁に激突したマクドナルドのマシンからは燃料が流出。これに引火して大炎上した。

炎に包まれたマシンはコース上に弾き返され、後続車を巻き込む大事故へと繋がった。この事故によりマクドナルドと、巻き込まれたエディー・ザックスの2名が亡くなった。

この他にも1982年のゴードン・スマイリー、1973年のアート・ポラード、ソルト・ウォルター、スウィード・サベージの立て続けの事故、そして近年では2度のインディ500優勝経験を持つ2011年のダン・ウェルドンのクラッシュなど、衝撃極まるクラッシュは数多い。幾人ものトップドライバーが命を落としている。

インディ500の安全対策

多くの事故経験から、インディ500は毎年のように安全対策をブラッシュアップさせ続けている。インディ500を初めて走行するドライバーに義務付けられたルーキー・オリエンテーション・プログラム、1週間近くにも及ぶ練習走行、コンクリートとウレタンフォームで形成された衝撃吸収バリアの世界初導入、マシンだけでなく全ての安全設備に細心の注意が払われている。

モタスポファンとして今後一切の事故が起こらないことを切に願うところではあるが、最高速度が380km/hにも達し事故時のGフォースが150Gを超える様なインディアナポリスでのレースを考えれば、その数がゼロになることは想像し難い。

しかし、関係者の絶え間ない努力と安全技術の進歩によって、モータースポーツでの安全性は着実な進歩を続けている。過去の事故を教訓にしこの試みを続けていくことが求められる。

レース事故より遥かに残酷な交通事故

ドライバーはもちろんのこと、メカニックや運営員などレースに関わる全ての関係者は、万が一のリスクを承知の上でレースをしている。その一方、一般道における交通事故はそうではない。

死ぬリスクを承知で歩道を歩く歩行者はいないであろうし、事故に遭う可能性を考慮しながら、子供と夫の朝の送り迎えをしている母親もいない事だろう。このような衝撃的な動画を目にしてしまうと、レースって怖すぎ…と思ってしまう方も多いであろうが、実際には一般道での交通事故の方が遥かに酷い。

世界中では毎日3,500人もの人々が交通事故で命を落としており、これらの事故は予防可能な交通事故であったとされている。シートベルトを締める、道路を横断する時にはよく見て渡る、飲んだら乗るな、などごく基本的なことがなされていないために起こってしまう事故が余りにも多いそうだ。

国際自動車連盟(FIA)は2020年までに交通事故死亡者数を半減させることを目標した「3500LIVESキャンペーン」を実施。モナコGPを欠場してインディ500に参戦したフェルナンド・アロンソや、MotoGP王者のマルク・マルケス等、多くの著名人がこれに賛同し、主にポスターという形で世界の都市で交通安全を呼びかけている。15〜29歳の死亡原因の第1位は交通事故だそうだ。

万が一クラッシュが起きてしまった際、それをテレビの向こう側の出来事だと思って終わらせずに、モータースポーツファンとしては、ほんの少しの意識で防げるはずの3500件の交通事故のことを思い出したいものだ。